日本が提唱する「自由で開かれたインド太平洋」とは? 中国は「一帯一路」主導
文書が示すトランプ政権の「アジア太平洋戦略」は、中国に対する警戒を中心に策定されていました。中国が米国および同盟諸国に対して軍事力を行使するのを抑止することを目的とし、各種の紛争において中国を打倒すること、尖閣諸島(沖縄県石垣市)や台湾が位置する「第1列島線」の内側を守り抜くための戦略を構築し実践することを明記していました。そして昨年7月には、ポンペオ国務長官が中国共産党政権との対決姿勢を打ち出すに至ったのです。
バイデン政権もインド太平洋を重視するのか?
バイデン政権の対中政策はどうなるか、またアジア太平洋の安全保障と協力はどうなるか、まだ明確になっていません。が、バイデン氏は知日派のカート・キャンベル元国務次官補をホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)に新設されるインド太平洋調整官に任命すると伝えられています。このようなポストを新設することは、バイデン政権がインド太平洋を重視していることの表れと解されます。 バイデン政権は民主党政権らしく、中国と関係を保ちつつ自由化や民主化を促す「関与政策」に戻るともいわれていますが、そのような政策が有効であったのは、中国が米国に次ぐ第2の経済大国になる(2010年)など世界における影響力を増大させる以前のことです。中国は今やその頃とは比較にならないくらい巨大なパワーとなっており、しかも、中国独自の外交を貫こうとする姿勢を見せています。新型コロナウイルスに関して東南アジア、アフリカ、東欧などで、独自の大胆なワクチン外交を展開していることもその例です。 さらに中国は、南シナ海でもまた香港問題でも、国際世論を無視し、大胆に行動したことが中国にとって好ましい結果につながっていると(誤って)認識している可能性さえあります。 台湾との関係も注目されます。習近平政権でまったく進展しなかったのは台湾問題だけであり、今後、台湾の統一へ向けた工作・攻勢をいっそう強めてくる危険があります。 客観的に見て、米国として中国に対する「関与政策」に戻る余地は小さくなっているのです。バイデン新政権はトランプ政権時代のような中国との赤裸々な対決姿勢をとらないのが原則だとしても、具体的にできることは限られています。 バイデン新大統領は政権発足早々に地球温暖化対策のパリ協定に復帰する大統領令に署名したほか、イランとの核合意についても方針を発表するようですが、中国を含むアジア太平洋についての方針策定も優先順位の高い問題であり、客観情勢を踏まえ早期に戦略を立てることが必要になっています。ただし、実際に戦略を固めるにはFOIPも含めなお時間が必要だと思われます。
----------------------- ■美根慶樹(みね・よしき) 平和外交研究所代表。1968年外務省入省。中国関係、北朝鮮関係、国連、軍縮などの分野が多く、在ユーゴスラビア連邦大使、地球環境問題担当大使、アフガニスタン支援担当大使、軍縮代表部大使、日朝国交正常化交渉日本政府代表などを務めた。2009年退官。2014年までキヤノングローバル戦略研究所研究主幹