「正解答案」だった日米共同声明 踏み込んだ「台湾」問題と重い「宿題」
菅義偉(よしひで)首相とアメリカのジョセフ・バイデン大統領の首脳会談が米ワシントンで16日(現地時間)に行われました。半世紀ぶりに「台湾」問題を共同声明に明記したことが注目されていますが、今回の日米首脳会談をどう評価するかについて、「アメリカ目線」と「中国目線」でそれぞれ識者に寄稿してもらいました。今回はアメリカ政治に詳しい上智大学の前嶋和弘教授による論考です。 【写真】「台湾」明記に中国の反発は抑制的 内在する日米の立場の違い
中国の「力による現状変更」を日米で牽制
今回の日米首脳会談について次のように評価したい。
(1)積み上げられた協議
「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を形作る日米同盟の強化と中国への協力した対峙で一致、気候変動のパートナーシップ構築や人権、サプライチェーンの見直し、知的財産権などと網羅的な「正解答案」だったといえる。バイデン政権に代わり、トランプ政権の時のようなトップ同士が交渉する余地はかなり少なくなっており、外務省や米国務省など専門家ルートを通じた交渉が積み上げられた成果であった。それもあって、共同声明に何が入るのかなども、かなり前から部分的に伝えられていた。
(2)「台湾」への言及
共同声明では中国の南シナ海における海洋権益の主張と行動を「不法」と言い切っているほか、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調する」と台湾にしっかり言及した。その点で日米としてはかなり踏み込んだ形となった。 声明に中国に対する厳しい言葉が入ったのは、その背景に中国による現状変更の試みの弊害が非常に大きくなっている点があるのは言うまでもない。特に、台湾が米中による軍事衝突の発火点になる可能性が出てきた中、日本としては台湾と尖閣諸島の距離を考えると、まずは台湾への中国の武力侵攻を徹底して警戒しなければならない。中国が策定した海警法に対する懸念は大きく、中国の「力による現状変更」を日米両国で牽(けん)制する必要性もあった。 そもそも3月の外務・防衛閣僚会合「2+2(ツー・プラス・ツー)」での共同声明の段階で台湾についての記述やウイグル、香港での人権問題の記述もあったため、日米首脳会談の共同声明にそれらの記述が入らないのは大きな後退となってしまう。さらに、削除することが政治的な配慮に見えてしまっただろう。 ただ、実際の共同声明の表現をどうするかについては、かなり慎重に言葉を選んだ。輸出先の約2割が中国であり、中国との経済相互依存がアメリカより進んでいる日本側としては、中国への過度な刺激を避ける必要があるためだ。「台湾を防衛する」といった具体的な文言を入れなかっただけでなく、最終的には、台湾問題については「平和的解決を促す」といったかなり穏当な言葉を選択した形となった。日米首脳会談後の中国側の反応も反発はすれど、ある程度、抑制的だった。