日本が提唱する「自由で開かれたインド太平洋」とは? 中国は「一帯一路」主導
中国が海・陸路で進める「一帯一路」構想を意識
この構想が打ち出されたのは、中国が南シナ海で領海侵犯や人工島の建設などの膨張的行動をとっていること、さらにインド洋にも進出して影響力を増大させていること、国際法を無視していることなど、各国が懸念する問題が生じているからです。 中国はさらに2013年、「一帯一路」構想を発表し、陸と海の両方で中国からヨーロッパに至るルートを構築し、拠点となる各地で鉄道や道路、港といった交通インフラを建設して物流ルートを整備し、広域の経済圏をつくろうとしています。「自由で開かれたインド太平洋戦略」は「一帯一路」をも意識した構想であると思います。中国による軍事拠点化や途上国を債務で隷属させることなどの懸念も背景にあるでしょう。
4か国外相会合に中国は反発し、王毅外相はマレーシアで「4か国はインド太平洋版のNATO(北大西洋条約機構)を構築しようとしている」と批判しました。また、在京の中国大使館は記者の問いに答え、「排他的グループを作るべきでない。第三国の利益を損なってはならない」などと回答しました。中国は「開かれたインド太平洋戦略」が中国に不利であるとみているのでしょう。
オバマの「リバランス」からトランプの「アジア太平洋」へ
米国はオバマ政権時代、当初は中東問題に忙殺されていましたが、2011年末に、アジア太平洋地域へ外交、経済、安全保障などの面で資源をこれまで以上に割り当てる「リバランス政策」を表明しました。この政策は、この地域における米国の軍事的プレゼンスの維持、貿易や投資の拡大、さらに、多国間の枠組みへの積極的な関与や、国際ルールに基づく秩序の維持などを含む包括的な戦略でした。
トランプ政権は発足時から、アジア太平洋地域を重視し、日本とインド、オーストラリアとの4か国による安全保障の枠組みがインド太平洋戦略の遂行に向けた「最も重要な軸」になるとの考えを取り始めました。そのことを記した文書は機密扱いになっていましたが、今年の1月12日、トランプ政権がホワイトハウスを去る直前でしたが、発表されました。 この文書が作成されたのは、安倍前首相が「自由で開かれたインド太平洋戦略」を発表した1年半後のことです。詳細は分かりませんが、米国が日本の戦略を参考にした可能性があります。しかし、米国ははるかに以前から、とくに冷戦が終結しソ連の影響力がなくなって以降、インド洋の安全保障への関与を強めてきた経緯があります。一方、日本は他地域の安全保障に関わりを持つことには極めて慎重でしたので、日本の戦略を米国が学ぶという関係ではありませんでした。