中国の戦略「真珠の首飾り」とはどういうものか?
9月の南アジア歴訪で、安倍首相はバングラデシュやスリランカとの関係強化を打ち出しました。これは中国の「真珠の首飾り」戦略をにらんだ外遊だったと報じられていますが、「真珠の首飾り」とはどういうものなのでしょうか。
インド洋を視野にシーレーン確保
「真珠の首飾り」とは中国が確保・構築しようとしているシーレーン戦略を指します。米軍の長期戦略考案を担う米国国防省ネットアセスメント局が、部内レポートで使った言葉として、2000年代半ば頃に知られるようになりました。アメリカが中国のシーレーン戦略を分析・命名するのに作った言葉で、中国側が自国の戦略を説明する際に、公式にこの言葉を使用したことはありません。 シーレーンとは、交易(経済)や安全保障上、重要な意味をもつ海上交通路のことを指します。長いシーレーンを守るためには、補給などを行う港湾や、チョークポイント(細い海峡や、航路が集中する要衝)の安全確保も重要になりますが、「真珠の首飾り」においては、航路とあわせて、中国が港湾や空港の確保にも努めている点が強調されました。 特に注目されたのが、パキスタンのグワダール港ほか、スリランカ(ハンバントタ港)、バングラディシュ(チッタゴン港)、ミャンマー(シットウェ港) など、インド洋進出のための港湾整備に中国が支援を行い、足場を確保しようとしている点です。中国の経済発展に欠かせないエネルギー資源、その消費量は増加する一方で、その対外依存度もますます高まっていくと予測されています。重要なエネルギー供給先である中東やアフリカからの輸送路の安全を確保すると同時に、輸送路の多角化を図るため、中国はインド洋をも視野に入れ、シーレーン確保に力を入れるようになっているのです。
「第一・第二列島線」との違い
中国の海洋戦略については、「第一列島線」や「第二列島線」という言葉も耳にしたことがあるかもしれません。これらは、1980年代に中国が軍事戦略上の概念として打ち出した言葉であり、「真珠の首飾り」と違い、より軍事に特化した内容となっています。「真珠の首飾り」は、中国のエネルギー戦略や通商政策をも反映した海洋戦略として捉えられています。また、第一列島線と第二列島線は、米国に対する防衛線として東シナ海と南シナ海に展開しており、インド洋までつながる「真珠の首飾り」とはその範囲も異なります。 どうして、「真珠の首飾り」という名前が付けられたのかは謎ですが、想像するに、(1)シーレーンと要衝(港湾等)を結ぶ図が首飾りのように見える、(2)真珠には東洋のイメージがあり、また大事なものを表すにふさわしい、(3)中国が要衝を確保しようとする動きと真珠の養殖をなぞらえている、ということではないかと推測されます。