夫が不倫して逃亡、子どもはがんに…押し寄せる試練も「救いの手」受け取らず 衝撃受けた日本のシングルマザーの過酷な実態
「元旦那が怖い」「子どもにバレたくない」 出演者集めに大苦戦…
実は同作品プロデューサーを務める及川あゆ里さんも母子二代にわたるシングルマザーの経験を持っていました。 とはいえ、監督自身はそこまで詳しい状況は知らなかったと言います。 「ゼロから始まったテーマなので、その耳に入った話以外は何も知らなかったです。だからリサーチを深くまでやりました。僕は気づいてほしいんですね。違うかもしれないって思うことを一番伝えたいです。苦しんでいる人たちに、差し伸べたその手を取ってほしいんです。そこはたぶん日本の特徴だと思いますね。プライドがあるので。でも、恥ずかしいことではない。国からもらえる場合は必ずサポートをもらってほしい」 撮影を始める前に難航したのが、出演者を集める作業でした。 「1番のチャレンジは出てもらう方を探すことでした。先ほどの耳に入ってきたシングルマザーの方にはみんな断わられたんですね。みんな映画には出たくないと言いました。元旦那が怖い、子どもにバレたくない、いじめがあるからって。だから、シングルマザーを支援する日本全国の団体やNPOに連絡したんですけど、映画に出ているハートフルファミリー以外は誰も返事してくれなかったですよね。すごい不思議なことでした」 状況は子ども食堂への打診でも同じでした。 「東京に850か所、子ども食堂があるんですけど、1日かけて半分の400か所ぐらいにメールして返事は4か所だけでした。その4か所の中で、3か所はごめんなさいで1か所だけ協力しますよと言ってくれたのが世田谷区の上馬子ども食堂です」 映画に登場する専門家に日本人はごくわずかです。これにも理由がありました。 「外国人のおじさんが多いってよく言われるんですけど、理由はちゃんとありますね。まずは日本人の女性エキスパートの声が欲しかったんです。大学の先生とか必ず必要だなと思って、すごく深くまでリサーチしました。いろんなシングルマザーの論文も読んで、有名な大学の先生全員にメールしたんですけど、全員に無視されたんですね。その道の専門なのに誰も協力したくない、できない。だからみなさんの言う“外国人のおじさんたち”に出てもらうしかなかったんですよ。それはとてもありがたいことでしたけど、そういう出演交渉が、めちゃ大きいチャレンジでした」 返信すらない状態に絶望しながらも協力的だった団体を頼り、そこから出演者を紹介してもらって点と点をつなげていきました。撮影開始は21年8月から。シングルマザーとしての生活を聞きたいのに、なかなか話してくれないなど、そこでも一筋縄ではいかない壁がありましたが、22年末にクランクアップとなりました。