「避難所には行きたくない」奥能登で被災したろう者が経験した「壁」──支援ニーズの掘り起こしとその先の対応 #災害に備える
避難所運営の現場で「合理的配慮」を当たり前に
福祉避難所は重要だ。一方で、指定されている施設が被災したり、職員が被災したりといった理由で、開設できないことも多い。今回の地震でも、福祉避難所の設置が進まなかったことが報じられている。 福祉と防災に詳しい立木茂雄さん(同志社大学教授)は、「要配慮者は福祉避難所でというだけでなく、よりユニバーサルなプランも持つべき」と説く。 「協会が一軒一軒避難所や自宅をまわり、困っている当事者を掘り起こして支援されていることには、頭が下がります。一方で、協会とつながれない人はどうするのだという課題は残ります。ろうあの方だけでなく、視覚障害や車いすの方もそうです。普段付き合いのある当事者コミュニティーの仲間がすぐに駆けつけられるとは限りません。避難所に行っても、車いすユーザーは靴が散乱していると入れない。通路が狭い。トイレがバリアフリーであるとは限らない。自分たちは避難所では暮らせないとはなから諦めて、自宅でひっそりと我慢して暮らす当事者の方が出てくる。これは災害のたびに繰り返し起きていることです。 障害を『社会モデル』でとらえれば、どの避難所でもバリアがないように合理的配慮を提供するのが本来の姿。ところが、避難所運営の現場では、そのことがまだ常識化していないんですね」 「社会モデル」とは、障害を、その人個人の問題とするのではなく、社会の側にある障壁によって生じるものとする考え方。 「避難所に来られない人がいたら、どこにバリアがあるのかを見直して、当事者が参画して運営マニュアルを検討し直すなど、改善するプロセス自体を地域防災計画に盛り込むといいと思います」 先進的な取り組みをしている自治体はある。 「例えば、大分県別府市は、部局の垣根を越えて、庁内連携で誰一人取り残さない防災計画づくりに取り組んでいます」
障害者にとっての災害は「新たな障壁が立ち現れること」
2021年に災害対策基本法が改正され、避難に支援が必要な人に個別避難計画を作成することが、市町村の努力義務になった。実際のプラン作成は、ケアマネージャーや相談支援専門員が、地域の方々と一緒になって担当する。 立木さんによれば、今回の地震では、介護保険サービスの利用者や障害者福祉サービスの利用者など、日頃から福祉の専門職が伴走している人たちは、大規模な避難所へ行けた。 しかしすべての障害者がそれに当てはまるわけではない。 「障害者手帳を持っている人の6、7割は福祉サービスを利用していません。なぜかといえば、日常生活で困っていないからです。ところが、災害によって環境が激変して、新たに障壁が生まれると、急に困るわけです。突然脆弱な立場に置かれる。これが障害のある人にとっての災害です」 当事者にできることは、自分で個別避難計画をつくることだという。 「もし私が被災したらどうなるんだろうと、自分の個別避難計画を自分でつくることが、まずできることです。水道が止まったら家にいられない、でも避難所へ行っても、アナウンスはスピーカーだけだし、何が起こっているのかわからないかもしれない。何か要望しようと思っても、ちゃんと聞いてくれるかどうかわからない。じゃあどうしようと、具体的にシミュレーションしてみる。そうすると、隣近所とつながる必要があるぞといったことがわかってくる。そのつながりを平時からつくっておくことが大事になってくるわけです」 これは障害者だけでなく、小さい子どもがいる家庭や一人暮らしの高齢者などにも言えることだ。 「子育て中のお母さんも障害のある方も、いざという時に配慮が必要なのは同じ。じゃあ、配慮を引き出すためにどうするか、と考えるんですね。いわば、縦割りではなく、横につながるプランです。そういったプランをつくる場に、当事者がどんどん参画してほしいと思います」