牛窪恵「なぜ結婚しない若者が増えるのか?〈結婚は嗜好品〉〈子どもは贅沢品〉か。マッチングアプリは結婚率を上げる?
◆流行ドラマに表れる自由恋愛への憧れ 時代ごとに異なる恋愛や結婚の価値観は、映画やドラマからも垣間見ることができます。 高度経済成長期に青春時代を送った団塊世代の女性は、映画『ローマの休日』に夢中になった方が多いようです。オードリー・ヘプバーン演じるアン王女がお忍びでローマの街を歩き、アメリカ人新聞記者と束の間の恋に落ちる。親の決めた相手ではなく、好きな人とバイクに乗ったりジェラートを食べたり自由に過ごすシーンは、多くの女性の心に響いたのでしょう。 そして現在60歳前後の女性には、『愛と青春の旅だち』『ゴースト/ニューヨークの幻』『プリティ・ウーマン』など、ハリウッド映画から大きな影響を受けた人が多いのも特徴です。 これらの作品では主に、男性が女性をエスコートするシーンや、障害を乗り越える恋愛の美しさが描かれています。バブル期の日本でも「あんな恋愛がしたい」と、恋愛トレンディドラマがブームになりました。
社会学的に見ると、86年に放送された『男女7人夏物語』が、結婚を前提としない「自由恋愛」を当たり前にした初めての国内ドラマだとも言われています。 70年代から80年代前半までのファミリードラマは、お見合いにせよ恋愛にせよ性交渉は結婚後、という暗黙の了解のもとに描かれていました。 たとえば、70年代の大ヒットドラマ『寺内貫太郎一家』では、樹木希林さん演じるおばあちゃんと浅田美代子さん演じるお手伝いのミヨちゃんが、婚前交渉に関する週刊誌記事を読みながら「信じられない」「なんてハレンチな!」と言い合う場面が出てきます。 一方、『男女7人~』は、前日まで見知らぬ他人同士だった明石家さんまさん演じる良介と大竹しのぶさん演じる桃子が、朝、同じベッドで寝ているシーンから始まるのです。良介は「酔って記憶がないけれど、昨夜この子と寝たかもしれない」と友だちに電話して自分の行動を確かめる。 これはつまり、結婚を前提としないセックスをしてもかまわないのだと、明確にドラマの中で描いたということ。 そうした自由恋愛の頂点のような作品が、91年のドラマ『東京ラブストーリー』でしょう。鈴木保奈美さん演じるアメリカ帰りのヒロインが、同僚である主人公の男性に「セックスしよ!」と堂々と言うのです。女性からそんな台詞で男性を誘うなんて、と当時の視聴者は衝撃を受けました。 このように、当時の映画やドラマは、時代の空気感や概念を投影する映し鏡でもあるのです。
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