「やっぱり幸せのために生きてるんだ、人間は」――どん底も闘病も乗り越えた加山雄三86歳、波瀾万丈の人生 #昭和98年
「幸せなまんま、パタッと逝けるのが一番いい」
加山の存在は後進に影響を与え、幅広い世代のミュージシャンとコラボレーションしている。最近ではAIを使って分身「バーチャル若大将」を作り、いろいろな楽曲を歌わせて YouTube配信するなど、新たな試みも楽しんできた。 「未公開の曲もいっぱいあるんだ。でも、詞を書いてくれる人がいねえもんな。(共に楽曲を送り出した作詞家の)岩谷時子さんがもういないから。俺は作詞のできない、しがない作曲家なんだ(笑)」 私生活では4人の子どもを育て、孫も4人いる。船は人生の友で、自身で設計した「光進丸」を愛してきた。火災で燃えたが、「しょうがねえよ、維持費も高いしさ」と落ち込まない。船上では客人の好みに合わせてコース料理を振る舞い、今月、秘蔵のレシピが本になった。
現在 は妻と2人、自立型ケア付き住宅で日々の暮らしを満喫中だ。 「4種類から料理を選べるんだよ。カミさんと、『俺はこれ、じゃああなたはこれ』。お互いにちょっと食べさせて、『これ、うまいね』って。おいしいものをありがとうって毎日感謝。幸せなまんま、パタッと逝けるのが一番いいね。例えばカミさんがパタッと逝っちゃった。そしたらその日の夕方、俺が逝っちゃった。するとお葬式は一日で済むよね」 歩みを振り返り、本気で感謝することがいかに大切か、かみしめるように語る。 「人から感謝してもらうことがあれば、それだけの生きてる価値があると、ささやかながら自分で認められるしね。まだ感謝してもらえることや、やらなきゃいけないことがある。ありがたいよね。『幸せだなぁ』だよ。やっぱり幸せのために生きてるんだ、人間は。生きていることに感謝。寝たきりになってもね、生きてることがいいと思わなきゃ駄目でしょ」
加山雄三(かやま・ゆうぞう) 1937年生まれ。1960年、映画『男対男』で俳優デビュー。翌年、レコード「大学の若大将/夜の太陽」で歌手デビュー。映画「若大将」シリーズは第18弾まで作られた。弾厚作名義で作曲家として活動し、「君といつまでも」「お嫁においで」など数々のヒット曲を世に送り出す。レシピ本『食べた人が笑顔になる それが最高の喜び 幸せの料理帖』が発売中。 「#昭和98年」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。仮に昭和が続いていれば、今年で昭和98年。令和になり5年が経ちますが、文化や価値観など現在にも「昭和」「平成」の面影は残っているのではないでしょうか。3つの元号を通して見える違いや残していきたい伝統を振り返り、「今」に活かしたい教訓や、楽しめる情報を発信します。 (取材・文:塚原沙耶)