「俺、プロでもやれるかも」 実業団からBリーグへ…小針幸也が安定した生活を捨て挑んだ理由
川崎ブレイブサンダース・小針幸也インタビュー後編
バスケットボールBリーグの川崎ブレイブサンダースは、今季転換期を迎えている。長年主軸を担ったニック・ファジーカスらがチームを去り、クラブ史上初の外国籍ヘッドコーチとなるロネン・ギンズブルグ氏を招聘。顔ぶれが大きく変わり序盤戦から苦しい戦いが続くものの、そのなかで新たな可能性を感じさせるプレーを見せているのが今季期限付きで加入したPG小針幸也だ。地元・神奈川県の出身。高校までは全国的に無名で、大学卒業後も実業団を経てBリーガーになった異色のキャリアの持ち主でもある。後編では実業団からBリーグ挑戦を目指した背景や、プロ入り後もハングリー精神を忘れずに全力で戦い続ける姿に迫った。(取材・文=青木 美帆) 【動画】「めちゃくちゃ綺麗な人抜かれるな~って思ったら…」 男子バスケ中継に映り話題 客席にいた女性の実際の様子 ◇ ◇ ◇ 2022年4月、秋田でスタートした小針の新たなバスケットボール人生は、非常に恵まれていた。月・火・水曜は17時30分、木・金曜は12時で退勤し、練習。多くの実業団チームが苦労する練習時間が、社のサポートにより潤沢に確保されていた。9月の天皇杯予選ではB3のしながわシティバスケットボールクラブを撃破し、JR秋田の単体チームとして出場した10月の栃木国体では4連覇を達成した。 そして小針の胸には、ある思いが生まれ始めていた。 「俺、プロでもやれるのかもしれない」 実は小針は、大学4年のリーグ戦が終わった後に、B1を含む複数のクラブからオファーを受けていたが、就職が決まっていたため、それらを断っていた。入社当初は、恵まれた環境で過不足ない日々を過ごしていたが、次第に自分が華やかで、ひりついた世界を求めていることに気づき始めた。 そして2023年の冬、ガードの選手に負傷者が出た長崎ヴェルカから声がかかった。 シーズンは残り数か月。プロキャリアのない23歳に提示された条件は、当然ながら、かなりシビアなものだった。安定した環境を捨ててまで行くべき価値があるのかと、当然迷った。 「めちゃくちゃ迷いました。怖かったです。けど、まあ最後は行くしかないなと思って行きました。親も挑戦することを喜んでくれていました」 退職に向けてのプロセスは、長崎の伊藤拓摩GM(現・社長)のサポートを受けながら自ら踏んだ。JR秋田の部長は「このチームからプロが出るのはめでたいこと」と喜び、煩雑な手続きに素早く対応してくれた。ヘッドコーチは将来有望なルーキーの離脱を残念がりながらも、小針の真摯な思いに共感し、快く送り出してくれた。 「所属していた課の人たちもすごく応援してくれたし、チームメートからも『早ければ早いほどいいから行ってこい』と背中を押してもらいました。すごく恵まれていたなと思います」