「俺、プロでもやれるかも」 実業団からBリーグへ…小針幸也が安定した生活を捨て挑んだ理由
「こんなにきついのか」プロ入り直後に受けた衝撃
2023年の2月初旬。同期たちから少し遅れて始まった小針のプロ生活は、出だしからフルスロットルだった。小針は懐かしげに振り返る。 「シーズン終盤でチームがほぼ完成していたので、死ぬ気で過ごしました。覚えることも多いし、外国籍の選手とやるのも初めて。最初マット・ボンズ(現・大阪エヴェッサ)は全然パスをくれなかったし、ジョーダン・ヘディング(現コンバージ・ファイバーエクサーズ)も自ら攻めたいタイプだから『早くよこせ』みたいな感じでしたし。『練習に行きたくないな』『こんなにプロってきついのか』と思いました」 2020年に創設し、ファーストシーズンの2021-22シーズンにB3優勝・B2昇格を果たした長崎は、この年も1年でのB1昇格というミッションを掲げていた。トライアウトから這い上がってきたメンバーも在籍しており、誰もがハングリーで必死だった。 「合流初日に狩俣さん(狩俣昌也)とマッチアップしたら、遊ばれましたもん(笑)。健滋朗さん(前田健滋朗ヘッドコーチ、現・滋賀レイクスHC)もそれをめちゃくちゃ煽ってきたし、強く言わないと練習を変わってくれない人もいましたし。最初はそういう雰囲気に慣れるのが大変だったけど、だからといって『入ったばかりだから……』みたいな姿勢は許されなかった。本当に刺激的でした」 死に物狂いの奮闘の末に信頼を得た小針は、加入して5節目となる香川ファイブアローズ戦で初めて先発起用され、以降もB1昇格のワンピースとして仕事を全う。翌年の契約を勝ち取り、年明け以降からは安定的にプレータイムを獲得し、3月からシーズン終了までの21試合のうち16試合で先発のPGを担った。
苦戦が続く川崎の現状に「もっと危機感を持たないと」
プロとして2シーズン目を戦い終えた今夏、期限付き移籍の報はエージェントから受け取った。 「最初は焦りました。B1間のレンタルはあまりないから、B2だと思ったので……。そうしたらB1の、しかも川崎と聞いたので『え、川崎に行けるの?』って感じでした」 その後、伊藤社長と面談し、詳しい説明を受けた。長崎の新しいヘッドコーチがこれまでのようなハイペースバスケではなくハーフコートバスケを志向していることを説明され、すぐに状況を理解した。 「拓摩さんから『せっかくスタートで出られるようになったのに、プレータイムが減るのはすごくもったいない。まだ若いし、欲しいと言ってくれているチームがあるなら行ったほうがいいと思う』と言われて、けっこうすんなりと決めましたね。もちろん、川崎で出られる保証もないけど、(長崎の)HCの方針が変わることはないだろうから移籍しようと」 昨季までの長崎と同様に、ハイペースバスケを展開する今季の川崎において、小針のスピードは加入直後から大いに重宝された。今はまだ「もともと持っていたものがさらに伸びた感じ」というほどに持ち味を生かせた長崎のようには、自分がフィットしている感覚はない。ただ、その違和感こそが小針のプロ選手としての伸びしろとも言えるだろう。 ロネン・ギンズブルグHCは、その1つに判断力を挙げ、練習後に2人でビデオクリップを見ながら、意識のすり合わせを行っていると話した。また、PGの先輩にあたるキャプテンの篠山竜青は、ディフェンスについてこんなことを話していた。 「長崎は元々決められたルールを遂行しなさいというスタイルだったらしいんですけど、ネノさん(ギンズブルグHCの愛称)は状況に応じて選手たちに判断させる余白を持たせるスタイルなので、そこで戸惑っている部分もあるのかなと思います」 今回の取材を実施した11月1日時点で、川崎は9試合を終え2勝7敗という成績だった。HCとメンバーが一新された上に、HCと外国籍2人がBリーグ未経験。チームの歯車が噛み合うには、それなりに時間がかかるというのが関係者の見立てではあった。 しかし、小針はそうは考えていなかった。 「『まだ始まったばかりだから』と言う人もいると思うんですけど、そろそろ完成度を上げていかないと、と思いますね。特に今年は、他のチームの完成度がすごく高いので。もちろん、60試合は長いし、僕も去年後半から一気に出始めたので、シーズン中に状況が大きく変わるリーグだというのは分かっているつもりです。でも、もっと危機感を持たないといけないんじゃないかと感じています」 まだ若く、いつ契約解除されるか分からない境遇からプロキャリアを始めた小針らしい、ハングリーな言葉だ。