高齢の母親、賃貸物件の契約更新してもらえない…「喫煙を理由に拒否」に法的問題は?
●借りた人が立ち退かなければならないケースは?
――では、正当事由が認められて、賃借人が立ち退かなければならない場合とは具体的にどのような場合でしょうか? 3つのケースが考えられるでしょう。 まず第1に考えられるのは、賃貸人が建物を使用する必要性が認められる場合です。 賃借人が建物を使用する必要性よりも、賃貸人が対象建物を使用する必要性が高い場合には正当事由が認められて更新拒否ができる可能性があります。 例えば、賃貸人が高齢で身体の不調によって家族と同居して老後の面倒を見てもらわなければならず、当該建物への入居が必要である場合に、正当事由が認められた例があります。 第2に考えられるのは、賃借人側に債務不履行があった場合です。賃貸借契約の債務不履行・契約違反の事実も正当事由の判断において賃借人に不利に考慮されます。 例えば、賃借人が家賃を何度も滞納している場合や、無断で建物を改装している場合や、他の部屋の住人に著しい迷惑をかけている場合が考えられます。 ――今回の相談事例では、「喫煙」が問題になっているようです。契約違反に当たる場合はこのケースの問題になるのでしょうか 前述したとおり、喫煙だけでは弱いでしょう。 喫煙により、他の賃借人が迷惑して解約・退去して空室が生じたとか、タバコの火の不始末でボヤ(畳を少し焼いたとか、共用スペースである廊下・階段・エレベーターなどを焦がしてしまったなど)の場合は、違反の程度が重大だと考えられて、正当事由が認められる方向にいく可能性があります。 もっとも、違反が重大である場合には、要するに「契約違反の程度が信頼関係を破壊する程度に至っている場合」だと考えられますので、信頼関係破壊を理由に賃貸借契約の解除が可能です。 ――3つ目の場合はどのようなものでしょうか? 第3に考えられるのは、建物の老朽化が著しい場合です。よくある相談です。 倒壊の危険性があるほどに著しく老朽化が進んでいる場合は、賃貸人の利益のためだけではなく、賃借人の安全のためにも建替えの必要性が認められます。正当事由があるとして更新拒否ができる可能性が高くなります。 ただし、「倒壊の危険性があるほどに著しく老朽化が進んでいる場合」かどうかは、難しい判断です。 築50年以上の建物は珍しくありませんので、現実には、「老朽化」だけで正当事由が認められる可能性は低く、立退き料の支払いがあって初めて正当事由が認められることが多いようです。