高齢の母親、賃貸物件の契約更新してもらえない…「喫煙を理由に拒否」に法的問題は?
●大家が更新拒否できる正当な理由は?
借地借家法28条の条文には、正当事由を判断する要因として次のものが示されています。 (1)建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情 (2)建物の賃貸借に関する従前の経過 (3)建物の利用状況 (4)建物の現況 (5)建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出 これらのうち、(1)が主たる要因で、(2)~(5)が従たる要因とされます。 まずは主たる要因として「賃貸人が建物の使用を必要とする事情」と「賃借人が建物の使用を必要とする事情」の比較衡量がなされ、それらだけでは判断できない場合に、従たる要因も加えて正当事由があるか否かを判断する、ということになります。 ――主たる要因である「(1)建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情」とは具体的にどのようなものが考えられますか? 賃貸人側と賃借人側にはそれぞれ以下のような事情が挙げられるでしょう。 賃貸人側の事情:賃貸人の居住・営業の必要性や、建替・再開発の必要性等 賃借人側の事情:賃借人の居住・営業の必要性等 ――従たる要因の(2)から(5)について、教えてください。 (2)建物の賃貸借に関する従前の経過:借家関係設定の事情、賃料額、当事者間の信頼関係等々 (3)建物の利用状況:賃借人が(契約目的に従って)建物を利用しているかどうか (4)建物の現況:建物自体の物理的状況 (5)「建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出」:一般的に「立退料」の提供といわれるもの この「立退料」という言葉自体は、よく聞く言葉ですが、ここで注意しなければならないのは、立退料は、上述のように従たる要因の一要素に過ぎないということです。 立退料さえ提供すれば正当事由が認められるわけではありません。つまり、立退料の提供は、正当事由がある程度認められる場合に初めて、その不足分を補完するための要因として考慮されるに過ぎないのです。 大家さんの中には「お金(立退料)を支払えば出て行ってもらえる」と勘違いしている人がたまにいますが、立退料だけで追い出せるわけではありませんので、要注意です。 大家さんからのよくある相談として「いくら支払えばいいのか?」つまり「立退料の相場」があります。 立退料にはそもそも定型的な計算方法というものはありません。結局は、裁判所が裁量によって決めることになります。裁判所は、移転の費用や、損失の補償などを考慮して考えることになります。 以上のとおり、簡単に更新拒否が認められるわけではありません。更新拒否が認められるための「正当事由」は相当高いハードルだと考えておきましょう。社会政策立法である借地借家法は、弱い立場にある賃借人が容易に追い出されるような事態を防いで保護することを目的としています。 このように、賃貸人が賃貸借契約を更新拒否すること自体は法律上可能ではありますが、容易には認められないのが現実です。