「山にでも捨ててくれ」と飼い主に言われた特養の愛犬「ルイ」 天国へ…体調悪化から3年 命の力強さ教わる
命のすばらしさと力強さを教えてくれた
翌2023年のお正月。チロの方が先に旅立ってしまいました。それからもルイは頑張って生きていました。時間をかけてゆっくりとご飯を食べていました。よろよろしながら、時として倒れたり座り込んだりしながらも、リビング中を歩き回っていました。 高齢犬の宿病といえる白内障のため、目はほとんど見えなくなり、耳もかなり遠くなっていた様子だったのですが、そんなことはちっとも気にしないそぶりで、あちこち自由に歩き回り、入居者に甘えていました。認知症を発症し、同じところをぐるぐる回っていたり、壁に行き当たって動けなくなったりすることが増えましたが、常に職員の目があるユニットでは、何の問題もなく過ごせていました。 チロが旅立ってから2年間、最初に体調を崩した時からは約2年半、ルイは精いっぱい頑張って生きてきました。何回もご飯が食べられなくなったり、歩けなくなったりして、今度こそ最期かと私たちは覚悟を決めたのですが、そのたびにルイは復活してきました。命を全うしようと頑張るルイの姿は、入居者にも職員にも大きな力を与えてくれました。私たちはルイを見て、命のすばらしさと力強さを教わったのです。 2024年12月9日、午後2時過ぎ、ルイは穏やかに旅立ちました。職員がその少し前に様子を見た時は、ルイはベッドの上に立ち上がって、ほえ声を上げていました。それからわずかな時間で息を引き取っていたのです。入居者の皆さんが昼食後にのんびり過ごすひと時です。ルイは、きっと、職員が食器を洗っている音や、入居者が会話している声など、いつもの生活の音を聞きながら、安心して旅立っていったことでしょう。 ルイ、これまでありがとう。私たちはルイのことを永遠に忘れないよ。君のことを思い出すと今でも涙がこぼれてしまうけれど、君が教えてくれた命のすばらしさを大切にして、私たちも頑張って生きていくよ。ルイ、本当にありがとう。
若山三千彦(わかやま・みちひこ)
特別養護老人ホーム「さくらの里山科」(神奈川県横須賀市)施設長 1965年、神奈川県生まれ。横浜国立大教育学部卒。筑波大学大学院修了。世界で初めてクローンマウスを実現した実弟・若山照彦を描いたノンフィクション「リアル・クローン」(2000年、小学館)で第6回小学館ノンフィクション大賞・優秀賞を受賞。学校教員を退職後、社会福祉法人「心の会」創立。2012年に設立した「さくらの里山科」は日本で唯一、ペットの犬や猫と暮らせる特別養護老人ホームとして全国から注目されている。20年6月、著書「看取り犬・文福 人の命に寄り添う奇跡のペット物語」(宝島社、1300円税別)が出版された。