父になった井上拓真が再起戦を“進化“示す圧勝劇…東洋太平洋王座を2階級制覇!
4ラウンドには拓真の強烈な右のストレートがカウンターとなって炸裂した。 最初の公開スコアは40ー36のフルマークが2人で、一人が39ー37。拓真のペースだった。攻めあぐむ栗原も状況を打開しようと工夫してきた。5ラウンドに入ると少しプレスを弱め、6ラウンドには、逆に引いてきた。誘いをかけてきたのである。 相手セコンドからは「攻めさせろ!」の声が聞こえた。 真吾トレーナーは「作戦なのか、パンチが効いているせいで休んでいるのかわからなかった。慎重にいかせた」という。 拓真も冷静に見極め誘いには乗らなかった。 「相手がペースを変えてきたのはわかった。あそこでいけなかったという反省はある」とする一方で、「いつもなら相手の土俵で打ち合ってダラダラといっていたが、そこには付き合わず、自分のボクシングをした。相手のパンチが強いことは映像でもKO率でもわかっていた。無理に打ち合うことはない。リスクもある。勝ちに徹した」という狙いがあった。 王者にとってみれば、もっとも嫌な「勝利のボクシング」を拓真に選択されたのである。 「少しは技術を見せられた。距離を徹底してできた」 最前列で見ていた兄は、試合後、拓真に「1年2か月のブランクの割にはよかったんじゃない?」と声をかけ珍しく及第点を与えた。 「1年2か月ぶりの再起戦で栗原選手との対戦でしたので不安な気持ちもありましたが、結果はパーフェクトゲーム。拓真は拓真のボクシング。これが井上拓真の強さ。あとは倒すまでの流れを掴めばもっと伸びる。兄弟での世界王者目指して頑張って行きます」 “世界の尚弥”は、大橋ジムを通じて、こうコメントを出した。 兄も無駄な打ち合いもせずスタイリッシュにポイントを重ねた拓真の“進化”を認めた。 昨年、結婚して父になった。スポーツメディア的には極秘結婚となるのだろうが、なにも極秘にしたわけでなく、わざわざ自分からプライベートを発表する必要もないだろうとの考えである。 実は昨年3月14日に地元海老名のホテルで挙式、披露宴を開く予定で招待状も配っていた。奥さんは拓真の幼馴染で、井上家では交際している頃から、その人柄に惚れて家族同様に受け入れていた女性だ。だが、新型コロナ禍で大々的に人を集めて華燭の典を行うわけにはいかず延期になった。それでも籍だけは入れて夏には長女も生まれた。この日の試合にも可愛い長女は観客席にいた。井上一家で息子の長女をあやしながら試合を観戦していた。 拓真がリング上から、それを確かめることができたか、どうかは定かではないが、もう戦う理由は、自分一人のためだけではない。父としての責任感がある。だから、今後の厳しい世界での戦いを見据えてポイントを奪う「勝利のボクシング」を迷うことなく最初から最後まで徹底的に実践できたのだ。