なぜ被害者に謝罪しないのか――「聖職者」の性暴力事件で浮かび上がるキリスト教会の問題
各団体「取材についてはお断りしています」
判決後、複数の団体が意思を表明した。「日本基督教団」「日本聖公会」など牧師や事件に関係した団体はウェブページなどで「長期にハラスメントの訴えを放置したこと」などについて謝罪を表明した。 女性と代理人の本田正男弁護士によれば、日本基督教団神奈川教区は、牧師の戒規(牧師の悔い改めと処分、教育)を決め、教団執行部に提言した。ただ、教団執行部との協議では、直接の謝罪や再発防止策に関する検討は行われていないという。日本聖公会は、聖路加に対して謝罪等の被害女性の要望を伝えたという。だが、聖路加は女性への謝罪には対応せず、また、日本聖公会が公開した謝罪文を非公開にしてほしいという申し出をしたという。一方、判決まで女性の訴えに取り合わなかった日本スピリチュアルケア学会は2月、女性に謝罪と牧師の厳正な処分、少なくない会員が関与した二次加害の調査、また宗教界の性暴力について対応することを約束。3月には懲罰審査委員会が開かれている。 総じて言えば、団体は事後対応や公的なアピールには動き出しているが、当事者としての謝罪には及び腰という状況だ。なぜなのか。 取材依頼に、日本基督教団事務局は「この件についての取材については、全てお断りしております。お問い合わせの件についても回答できません」との回答。「A牧師を支えて守る会一同」は専門紙上で声明を撤回したが、単立横浜聖霊キリスト教会からは応答がなかった。また、日本スピリチュアルケア学会は「各会員の身分および記録を含むすべてについて、当学会は個別の開示依頼に応じておりません」という回答だった。 本田弁護士は、各団体の対応に「宗教上の自治を乱用しているのではないか」と感じている。 「身内の非を認めなかったり、開き直ったり、身内のかばい合い体質がより強くキリスト教内にもあるのではないか。それが被害者を二次的に傷つけることになっている」
聖路加「判決に基づくお支払い以外の対応は致しかねます」
判決後の1月下旬。本田弁護士のもとに1枚のファクスが届いた。聖路加国際大学の代理人を務める弁護士事務所からだった。文面には期日までに損害賠償の費用を支払うとあり、こう続いていた。 <(原告ご本人に対する謝罪<略>)につきましても検討いたしましたが、学校法人聖路加国際大学としましては、判決に基づく上記のお支払い以外の対応は致しかねますので、ご了解下さい> 女性への謝罪はしないということだった。 判決が出た際、聖路加は報道各社に「判決文がまだ届いておりませんので、精査してお答えしたいと思います」と回答している。判決文を精査されたであろう2月、直接謝罪の考えがないかなど、ファクスで聖路加に質問を送った。 だが、聖路加からの回答は「お答えは差し控えたい」だった。 女性は今回の事件を通じて、聖職者による性暴力は「あり得ない」「信じられない」と否認されやすいことを身をもって実感した。また、性被害への偏見から、被害を口に出すことを「教会や神への冒とく」とプレッシャーに感じることもある。被害者を孤立させないためにもキリスト教界での性加害・ハラスメント行為、二次加害の実態を調べる必要があると考えている。 聖路加からの連絡に女性は愕然とした。それでも「チャプレンを含む医療従事者一人ひとりがしっかりこの事件を見つめ、真の信頼回復につなげてほしい。何が起きているのかタブー視するのではなく、現実として認識してほしい」と願っている。 --- 田中徹(たなか・てつ) ジャーナリスト、新聞社記者を経て雑誌編集者。@tetsu_facta 「聖路加国際病院チャプレンによる性暴力サバイバーと共に歩む会」のTwitterは@stluke_survivor。Facebookグループでも活動している。 本記事は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」、「#性のギモン」の一つです。人間関係やからだの悩みなど、さまざまな視点から「性」について、そして性教育について取り上げます。子どもから大人まで関わる性のこと、一緒に考えてみませんか。