「親の反応が二次加害になりうることを知って」――記者が語る、子どもの性被害に大人は何ができるか #性のギモン
「性被害にあったとき、なかったことにしたり、過小評価したりせず、しっかりと受け止めることが求められます」。子どもへの性暴力を長年取材する新聞記者の大久保真紀さん(58)は言う。子どもが被害を打ち明けたときどんな対応をするか。子どもがなんでも話してくれる親子関係を築けているか。「性教育によって性被害は減る」「大人こそ学ぶ必要がある」という大久保さんに聞いた。(取材・文:長瀬千雅/撮影:伊藤菜々子/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
心身ともに深い傷を残し、ときには命までも奪う
大久保真紀さんは「子どもへの性暴力」を2018年から取材している。8歳で性犯罪の被害にあった女性や兄から性的虐待を受けていた女性など、当事者の声を記事にしてきた。大久保さんのもとには読者からたくさんの手紙やメールが届く。 「多くが当事者の方からです。誰にも言わないできたけれど兄から性暴力を受けていたという60代の女性や、兄から被害を受けて『親から黙っていろと言われた』という80代の女性もいました。『記事を読んで、自分に起こったことを話していいんだとわかった。人権を主張できる時代になったんですね。ありがとうございます』と。こういったお手紙をいただいて感じるのは、隠されてきた被害がたくさんあるということです」 連載企画を立ち上げて数人の記者とチームを組み、最初の記事を出したのは2019年12月。以来、家の中で、立場を利用して、日常生活の中でなど、さまざまな角度から子どもへの性暴力について伝えている。取材班で話を聞いた当事者およびその家族は100人近い。支援者や研究者にも取材して、どうしたら被害をなくせるかを考え続けてきた。
――子どものころに受けた性被害はその後の人生にどのように影響しますか。 「影響がどれぐらいか、どのように回復の道を歩むかは人それぞれで、一般化することはできません。ただ、影響がとても大きいとは言えます。心身ともに深い傷を残し、その人の人生を壊し、ときには命までも奪ってしまいます。特に、もっとも安心安全であるべき家庭の中での被害は、子どもにとって世界が足元から崩れ落ちるような経験で、繰り返し被害にあうことも多いので、影響は重症化・長期化すると言われています。しかし被害の実態はなかなか表に出てきません。思春期の問題行動や成人してからのさまざまな身体症状・精神症状が、じつは性暴力の後遺症だったということはたくさんあると思います」 「幼いときに受ける被害は、本人にとっては何が起きているかわからない体験です。取材班の仲間が話を聞いた方ですが、5歳から父親に性的虐待を受けていた女性は、当初はくすぐったいのがいやだとしか思えなかったそうです。あとになって自分の身に起きたことの意味がわかったとき、人に知られてはいけないことをした自分が悪いと思いこみ、自分は共犯者だと思った。自分を消してしまいたいと思い詰め、うつ状態を経験するなど苦しい思いをされた。その方が『自分は被害者だった』と気づくのは40歳をすぎて『性虐待』という言葉に出合ってからです。この方に限らず、ずっとあとになって『自分は被害者だったのだ』『あれは性暴力だったのだ』と気づく人は少なくありません」