なぜ被害者に謝罪しないのか――「聖職者」の性暴力事件で浮かび上がるキリスト教会の問題
チャプレンルームでの性的な強要
チャプレンルームに女性が通い出したのは「深刻な告知」を受けた後。そこで出会ったのが、当時40代半ばの男性牧師だった。当初、牧師は「もし、自分が同じように難病になったら、生きているのもつらいと思う」など女性に寄り添う言葉もかけていたという。女性はその言葉に安心し、病苦の心情や治療の不安などを話した。 ところが、数回のケアを経たあとの5月8日、思いもしないことが起きた。訴状と判決によると、以下のような状況だった。 チャプレンルームでのケアの最中、牧師は突然、内鍵を閉めると、女性にマッサージを要求した。牧師はソファの椅子に寝ころび、ズボンと下着を下ろし、陰部のマッサージを強要した。トイレに逃げた時、女性は知人の弁護士に「牧師に、セクハラで、逃げたい。体力的にも無理。助けてください」とショートメッセージを送っている。 朦朧として自宅に帰った女性は深夜、性暴力救援センター東京(SARC東京)に電話した。ところが、そこの相談員からも傷つく言葉を返された。「聖路加には私たちの仲間がいる。聖路加でそんなことが起きるなんて信じられない」と言われたのだ。また、知人の弁護士に相談したところ、その弁護士からも「密室での出来事は証明が難しい。今は大事な治療を優先したほうがいい」と言われた。女性は被害を信じたくない気持ちや、今後の治療への不安に襲われ混乱した。
さらに5月22日、受診のために聖路加の待合室にいたところ、牧師から声をかけられた。牧師は何事もなかったかのように「お話をしましょう」と声をかけてきた。8日のことを問いただしたい気持ちもあり、牧師に応じた。牧師のプライベートルームに通された。ところが、話を始めて1時間ほど経つと、牧師は再び陰部などのマッサージを強要し始めた。さらに「制御不能になってきた」などと言い、女性を抱えて机の上に乗せ、逃げられない状態で体をまさぐった。 聖路加という場で牧師から受けたわいせつな行為。自分の身に起きていながらも信じがたく、理解ができない出来事だった。あの時の心理を女性はこう振り返る。 「聖路加で治療を受けられなくなるかもしれない……と考えたら、患者であり信者でもあるという関係の中、牧師の要求を明確に拒否できなかった」 2018年1月、女性は警視庁の犯罪被害者支援窓口に相談、築地警察署に被害届を提出した。 問題は、その事件で終わらなかったことだ。この事件をめぐって聖路加や一部牧師の関係者らが女性の訴えに取り合わず、逆に牧師を擁護し始めたのだ。