なぜ被害者に謝罪しないのか――「聖職者」の性暴力事件で浮かび上がるキリスト教会の問題
牧師を擁護する教会関係者「無実の罪を着せられた」
2018年3月、女性は診察中、牧師の性加害によるフラッシュバックを起こした。その時、介助した看護師に性被害のことを伝えた。その後、リエゾンナース(精神看護専門看護師)と面談し、あらためて性被害のことを伝えた。たが、リエゾンナースは「うちのチャプレンがそんなことをするはずがない」「本当なら警察が来るはず」と女性の言葉を信じなかった。そこで女性は知人の弁護士に同行してもらい、重ねて性被害を伝えた。すると、リエゾンナースは「医療従事者から患者へのハラスメント相談窓口はない。病院の顧問弁護士に相談を」と告げた。弁護士は「中立性に欠ける」と抗議したが、「聖路加は適正な対応をしてくれなかった」(女性)。女性は転院を余儀なくされた。 警察への被害届が受理された同年6月、強制わいせつ事件として捜査がなされた。牧師立ち会いのもと、築地署の捜査員は聖路加で実況見分を行い、写真撮影報告書を作成した。ここで牧師は一連の行為をおおむね認めた。牧師は強制わいせつの疑いで書類送検された。 ところが、書類送検後の9月、牧師側に思わぬ援護が現れた。牧師が所属していた単立横浜聖霊キリスト教会(横浜市港北区)が「A牧師を支えて守る会一同」の名義で「一方的な報道に遺憾の意」を評する声明を出したのだ。いくつかのメディアが事件を報じていたが、それに対して「性加害は事実無根」「チャプレンは患者に対して弱い立場の被害者である」「患者に寄り添ってきたチャプレンが無実の罪を着せられた」など、女性のでっち上げを想起させる内容だった。一部のキリスト教・スピリチュアルケア関係者によってSNSで拡散もされた。 同年12月、牧師は不起訴処分(嫌疑不十分)となった。牧師は捜査で行為の事実関係を認めていたものの、密室で起こる性犯罪は一般に立証のハードルが高い。 女性は2020年11月、牧師と聖路加を運営する学校法人聖路加国際大学に、連帯して計約1160万円の損害賠償を求める民事訴訟を東京地裁に起こすに至った。2年後の2022年12月、冒頭のように、地裁は女性の訴えを認めた。双方とも控訴せず、判決は確定した。 判決が確定した現段階で、牧師は事件をどう捉えているのか。直接、牧師にあたることにした。