「もしトラ」なら円高に転じる? 円安が進む?【Q&A】
「対中関税60%」実施なら金融引き締めで円安に?
Q:トランプ氏は自身が大統領に返り咲いた場合、通商政策や地政学的な観点から米国が強硬な態度で臨んでいる中国製品に対しては60%、その他地域の製品に対しては10%の関税を課すことを検討していると報じられたが、そうなった場合の為替への影響は? A:関税は米国内にインフレ圧力をもたらす公算が大きいです。前回のトランプ政権時に導入された関税(対中国製品)は中国が人民元安に誘導したことによって相殺されたことから、消費者段階における財価格が顕著に上昇することはありませんでした。しかしながら、現在伝えられている案(対中関税60%、その他に10%)がそのまま実施された場合、当社の試算によると、米国のインフレ率は+0.1~0.3%pt加速することになります。多くの米国民にとってインフレからの救済が最大の関心事となる中、それを加速させる政策は受け入れ難いものになるでしょう。そこでインフレ抑制の観点からトランプ大統領がドル高を選好する可能性があります。その場合「(関税による)インフレ加速→引き締め的な金融政策→米金利上昇→ドル高(円安)」という結果になるのではないでしょうか。
移民抑制なら労働力減で円安? 需要減で円高?
Q:トランプ政権が移民抑制に強硬な姿勢を打ち出した場合、為替に与える影響は? A:CBO(米議会予算局)の試算によると、移民流入数は2023年と2024年にそれぞれ年間330万人程度となった後、2025年以降は漸減し、当社試算によれば2027年には110万人程度になります。さて、こうした移民の減少が為替にどういった経路を通じて波及してくるでしょうか? その点、筆者は「安価な労働力」という視点に重きを置いています。現在のインフレの根幹にあるのは、人手不足に起因する労働コストの高止まりですが、それを埋めているのは移民の労働力です。すなわち移民の流入は労働市場の逼迫を和らげ、賃金上昇圧力を減じ、インフレ沈静化に貢献していると考えられます。したがって、移民制限は「労働供給の減少→賃金上昇→インフレ再加速→引き締め的な金融政策の長期化→米金利上昇→ドル高(円安)」という結果をもたらす可能性が高いと考えることができます。 もっとも、筆者はこうした予測に強い自信を持っている訳ではありません。というのも、移民は消費(含む住宅)の拡大を通じてインフレ圧力をもたらすとの見方もあるためです。移民が制限されれば、総需要が減少したり、住宅価格上昇が一服したりするなどして、インフレ圧力が後退する可能性もあります。その場合、Fedは利下げを進め、ドル安(円高)が進行するでしょう。
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