円安は無視できない水準に? 通貨防衛的な日銀利上げはあるのか
円安が進行する中で、日銀の利上げの可能性に注目が集まっています。次の利上げはあるのか。どのタイミングがあり得るのか。第一生命経済研究所・藤代宏一主席エコノミストに寄稿してもらいました。 【グラフ】日経平均が史上最高値更新 日本でも欧米並みの賃金インフレが起こる?
円安対策としての利上げはそれほど効果はない?
日銀が円安抑止を目的とする、いわゆる通貨防衛的な利上げに踏み切るとの見方があります。もっとも、筆者が想像するに日銀は(自身の)金融政策によって為替を円高方向に動かせるとは考えていないと思われます。したがって、現在のように賃金・物価に集中する姿勢を貫くと見ています。円安は、日銀を利上げに動かす一因になったとしても、主因になるとは考えにくいです。 日本経済に大きな悪影響を与えない範囲で可能な利上げ幅は、高く見積もっても1%でしょう。個人消費がマイナス基調にある中、住宅ローン金利の上昇を伴う連続的な利上げに限界があるのは論をまちません。また日銀のバランスシートが膨れ上がっている現状において利上げは超過準備への付利(民間銀行が保有する日銀当座預金残高に対して付ける利息)が大きな負担になるという問題があり、日銀財務の観点でも難しさを抱えています。もちろん政府の利払い費増加という問題もあります。そもそも投機筋がそれを見越しているからこそ現在の円安があるという見方も可能でしょう。 ここであらためて認識したいのは金利の絶対値です。米FRB(連邦準備制度理事会)が2022年3月から1年半にも満たない期間で5%超の利上げを敢行したのに対して、日銀は調整に調整を重ねてようやく0.1%の利上げを英断したに過ぎません。日銀の利上げが日米金利差縮小に直接働きかける効果が限定的なのは火を見るよりも明らかであり、円安抑止力に対する過度な期待は禁物でしょう。円安対策として日銀の利上げを求める声もありますが、その威力は竹やり程度ではないでしょうか。
為替の動向を無視できる状況でなくなりつつある
こうした事情を踏まえると、やはり日銀が通貨防衛的な利上げに踏み切るとは考えにくいです。ただ植田総裁は為替が「経済・物価見通しに大きな影響を及ぼすなら、金融政策としての対応を考えていくことになる」とも発言しており、為替を無視できる状況ではなくなりつつあるのは事実です。そう考えると、次回の利上げは最大限の円高圧力を生み出せる時が候補になるのではないでしょうか。それは「FRBの利下げが始まる、或いはそれが強く意識され、ドル安の風が吹く時」でしょう。 ここでいうドル安とは、他の主要通貨、代表例としてユーロが上昇するような地合いを指します。大幅な円安局面が始まった2022年春以降、ドル安の風が吹いた例としては2022年10月~2023年1月があり、その間、USD/JPYはユーロ高を横目に2022年10月の150円超から2023年1月に130円を割れました。それはFRBの利上げ打ち止め観測が(一時的に)強まり、米長期金利が低下した時期に概ね一致します。日本国内においては2022年9~10月に実施した政府の為替介入が所期の効果を発揮したとの見方も多いですが、この間のユーロ高に鑑みれば、本質的にはドル安の側面が強かったと評価するのが妥当でしょう。政府の為替介入が大幅な円高に繋がったのは、そのタイミングの良さの賜物と考えるのが正しいように思えます。市場関係者の間で、為替介入の時機を的確に見定めた財務省の「相場観」を褒め称える声は多い印象があります(筆者も同感)。 日銀が円安抑止を念頭に置くならば、FRBの利下げを待つという選択肢が合理的に思えます。筆者は賃金データの蓄積が進む10月が次回の利上げになると予想していますが、為替とFRBの動きの組み合わせ次第では7月の可能性も考えられます。その組み合わせの一例としては、円安継続によって日本国内から日銀に利上げを迫る声が一段と強まる中、7月FOMCにかけてFEDの利下げ観測が台頭することでドル安地合いが醸成され、そこに日銀が利上げの一撃を加える、などといったものがあります。4月の金融政策決定会合では、そうした展開が現実味を帯びるのかに注目したいところです。
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