より効く、より副作用が少ないがんの治療を探す―研究・治験の最前線
◇がん免疫治療が抱える課題
近年、多くのがんの治療において、免疫の力を利用してがんを攻撃するがん免疫療法が取り入れられています。しかし、実際にこの治療法でがんに効果が認められているのは1~2割ほどに止まります。 また、がん免疫療法に使用する免疫チェックポイント阻害薬は、効き目のある患者さんには長期的な有効性が認められている反面、最初の投与で効果がないケースも多々見受けられます。そのため、分子標的薬や従来の抗がん薬などを併用する「複合がん免疫療法」によって、その効果を引き上げる治療が主流になっています。 しかし、特に抗がん薬を使用した治療法は、治療後に患者さんの免疫力が落ちてしまうという問題を抱えています。したがって、複合がん免疫療法は短期的な視点で免疫が低下してしまうことによる人体および治療効果への影響を慎重に検討する必要があります。
◇抗がん薬を使わない新しいがん治療を目指す
こうした課題に対し、私たちの研究チームでは抗がん薬に代わって光に反応する「光感受性物質」を用いた光線力学的治療法を免疫チェックポイント阻害薬と併用する研究を進めています。この治療法は、腫瘍に取り込まれた光感受性物質に対しレーザーを照射することで、がん細胞を選択的に破壊します。正常な組織にはレーザー照射しないため、局所はもちろん、全身の免疫力や健康状態にほとんど影響を与えない点がメリットといえるでしょう。 光線力学的治療法は、従来の放射線治療と比べてもメリットがあります。放射線治療では骨髄へ照射された場合「骨髄抑制(骨髄の造血細胞のはたらきが悪くなること)」が起き、免疫力が低下してしまう場合がありますが、光線力学的治療法においては局所の治療効果のみで、骨髄抑制は起きないため免疫力を維持することができます。また、放射線治療では目標とする腫瘍を破壊した際、放射線を当てていない病巣の腫瘍も縮小するという現象が確認されています。これは「アブスコパル効果(遠達効果)」と呼ばれますが、同様の効果は光線力学療法でも確認されています。したがって、光線力学的治療法では、アブスコパル効果を期待しつつ、免疫力が減衰しないため免疫チェックポイント阻害薬の効果を維持できる可能性があります。 すでに動物実験でその有効性を実証しており、現在はヒトを対象にした治験を進めています。この治療法が実用化されれば、抗がん薬を使わない新たながん治療法になると期待しています。 もちろん、患者さん一人ひとりの状態によって効果は変わると予想されますので、今後、基礎研究や臨床試験などを通じてメカニズムの解明に努めます。研究が軌道に乗れば、より精密な治療開発にもつながるのではないかと期待しています。