より効く、より副作用が少ないがんの治療を探す―研究・治験の最前線
◇新薬の開発のプロセスとは
まず、新薬の開発過程について説明しましょう。新薬の開発は、効果や安全性を確認する試験を段階的に行いつつ、厳密なプロセスを経て進められます。 初めに、「基礎研究」を行って効果の見込める薬剤を選定します。その後、ヒトの細胞やネズミなどの動物を対象とする「非臨床試験」を行い、安全性や効果を検証します。 非臨床試験で安全性と効果が確認できれば、今度はその治療薬をヒトに投与する「臨床試験」を行います。臨床試験の中でも、特に国に医薬品としての承認を得るための検査は「治験」と呼ばれ、通常は以下の4つの段階に分かれています。 ・第I相:少人数の患者さんを対象に、薬の安全性や副作用を確認します。徐々に薬の量を増やしていき安全に投与できる量を決めます。 ・第II相:第I相で確認した投与量での有効性と安全性を詳しく検証します。 ・第III相:現時点でもっとも効果があるとされている薬と比較して「ランダム化比較試験」を行い、効果を検証します。 ・第IV相:市販後の安全性を評価します。 なお、治験を始める前には対象者の参加基準、薬剤を投与する人数や調査期間などを設定し、より正確なデータを得られるように努めています。第III相試験で有効性と安全性が確認されれば、製薬企業が新薬の承認申請を行い、国に承認された場合、薬としての値段(薬価)が決まり、ようやく治療薬として使えるようになります。 新薬といっても必ずしも既存の治療法より効果が高いわけではなく、たとえ従来の治療薬と効き目は変わらなくても、毒性が低いという理由で新薬が生まれることもあります。また、がんの治験の段階では基本的に合併症がない患者さんを対象としますが、市販されたあとは、合併症がある方を含めてさまざまなシーンで使用されるため、リリース後も慎重に安全性を確認していくことになります。 一説によると、新薬の候補が治験に進むのは約3千分の1、さらにその中で治験を実施しても実際に新薬として承認されるのは10分の1程度といわれています。1つの薬が完成するまでには多数の患者さんや医療関係者の協力のもと、長期間にわたる基礎研究や臨床試験などが必要となります。そのため新薬の開発には多大なコストがかかりますが、そのぶん医療の進歩に大きなインパクトを与える重要な取り組みといえるでしょう。