子育て卒業間近の”空の巣症候群”を救った価格98万円の温泉付きマンション。伊豆で二拠点生活をはじめたら家族との時間も充実した! 小説家・高殿円
「温泉付き物件取得」の夢が明確になり、土地選びへ 一気に「私」が前進した
そんなわけで、最初はおそるおそる一週間、民泊で部屋を借りてみた。たしか大分の別府温泉だったと思う。海があって、観光地ながら適度に落ち着いていて、フェリー1本で関西からアクセスできてとてもよかった。 ただ、温泉付きのマンションは思ったよりは少ない。その理由は。市営の銭湯が安いからみな管理が大変な温泉付きより、外湯に通うことを選ぶからだとわかった。 「いや、私はそんなに外に出たくない。家でのんびりお風呂を楽しみたい」 ここで自分のことをひとつ知ることができた。私は温泉も好きだけれど、だらだらお風呂でドラマを観たり四季報を読んだりするのがもっと大好きなのだ。お風呂は私の聖域であり儀式なのだから、大浴場は気を使ってしまってよくない。というわけで別府をあきらめ、草津の山奥にあるロッジを1カ月借りてみた。 そこは草津の最高の湯がこんこんとわき続ける別荘地で、私はひたすらHuluで『ザ・ローマ 帝国の興亡』を観続け、熱中しすぎて脱水症状を起こすぐらいあったまって過ごした。ああ、なんという潤沢な製作費であろうか。ROMA最高。 夏休みシーズンで友人たちが代わる代わる泊まりに来てくれ、最終週は家族が関西からやってきてのんびり田舎の夏を楽しむことができた。高原が近くとにかく水と野菜がおいしくて、肉が食べたいとまったく思わなかった。 ここで私は自分をまたひとつ知ることができた。私はおいしい水が大好き。おいしい水でできた新鮮な野菜ももちろん好き。今まで自分のことを肉好きだと思っていたけれど、なんと野菜さえあれば肉は必要ない人間だったのだ。そんな気づきは初めてだった。 では、草津に拠点を買うか? いや買わなかった。草津のお湯は前評判通り最高だったのだけれど、冬は雪かきが必要だということと、女一人が住むには山奥の別荘地はちょっと不安に感じた。あとは関西からだと、アクセスが悪い。私が住む芦屋エリアからだと、草津までは6時間半以上もかかってしまう。 山は湿気があり、手入れをしていない別荘は傷んでいた。あとは草津の湯は強硫黄泉のため、流れる川には虫も魚も生息できない。当然配管メンテナンスが大変で、維持費が思った以上に高額だった。 結局、泣く泣く草津を断念した。あとは山よりも海に魅力を感じている自分を知った。