子育て卒業間近の”空の巣症候群”を救った価格98万円の温泉付きマンション。伊豆で二拠点生活をはじめたら家族との時間も充実した! 小説家・高殿円
「子ども」を切り離した「私」って? 自分がわからなくなった
「っていうか、夢とか希望って、なんだっけ」 子どもができて、それらはすべて「子どもの」夢や「子どもの」希望にすり替っていった。いつだったか4歳までしゃべらなかった息子と二人、療育に通いながら「問題なく学校生活を送れるようになりますように」「息子に友達ができますように」と夢を見た。 幸運にもそれらが叶ったときには希望が生まれた。「もしかしたら大学にいけるかも……?」それはたしかに私の夢や希望であったけれど、私単独のものではなかったのだ。 思い出せ。自分の夢や希望を。それは生きるためにまだ必要だ。コロナ禍真っ最中に、私はかつて当然のように抱いていた「私単独の夢」についてぼんやりと思いを馳せていた。人生100年時代がやってきた。ならば私はまだ半分を折り返したにすぎない。余生というにはあまりにも長い時間をこれからどう過ごそう。そもそも私ってどんな人間だったっけ。人間は忙しすぎると、自分すら忘れてしまう。
夢は「私だけの秘密基地をつくること」。いざ、物件取得へ!
「なんかよくわからないから、秘密基地をつくろう」 夢を叶えるにも、夢をもつにも、健康が第一だ。17年前と大きく違っているのはとにかく健康状態。薬がないと眠れないひどい睡眠障害に運動不足、始まった老眼、生理不順、そしてフリーランスという不安定な収入と、そのせいで不安定になるメンタルだった。夢なんて思い出せないけれど、まずはとにかくこれを解消するんだ。さあどうすればいい? 「よーし、温泉を買おう」 私は自分の愛するものについて、ずっと愛してきたものに対して、まるで遺跡から奇跡的に割れずに形を保っていた土器をそうっと掘り起こそうとするかのように思い出した。そうだ、私はお風呂が好きだ。温泉が好きだ。毎日お風呂だけが楽しみで、長湯をしたってちっとも辛くない。お湯が冷めたら追いだきしながらお風呂でドラマをだらだら観るのが好きだ。 ここで思いついた。「だったら追いだきしないでいい、温泉を買えばいい」。どうせ数年コロナで海外には出られないんだし(とその時は思っていた)、コロナが明けたら息子は受験であっという間に家を出ていく。今から少しずつ距離をとりながら、忘れていた自分への投資をはじめよう。