日銀・黒田総裁会見10月28日(全文1)若干の円安は日本経済にプラスの効果
消費者物価は徐々に上昇率を高めていく
そこで、第2のご質問に関連するわけですけれども、わが国の消費者物価が米欧との対比で弱い動きとなっている背景としては、まず第一にそもそも需要の回復が米欧よりも遅れていたと、やや鈍かったということがあると思います。 第二に、わが国の企業は感染の拡大時にも、雇用の維持を重視して労働力を保存してきたわけでありまして、その結果、需要が回復しても価格や賃金を据え置いたまま、速やかに供給を増やす余地が残されているということであります。 第三に、わが国の企業は原材料コスト上昇分の多くをマージンの圧縮によって吸収し、販売価格を可能な限り据え置こうという傾向が強いわけでありまして、これは過去のデフレ期に定着した考え方や、慣行化、粘着的な適合的期待形成のメカニズムを通じて、現在まで根強く残っているということを意味するのではないかというふうに思います。 ただ、先行きにつきましては、感染症の影響が和らいで需給ギャップの改善が続いていけば、企業収益や雇用・賃金の改善を伴いながら消費者物価の基調としては徐々に上昇率を高めていくというふうに考えております。 時事通信:ありがとうございます。それでは各社、よろしくお願いいたします。
円安の日本経済への影響は
ブルームバーグ:ブルームバーグ、伊藤です。よろしくお願いします。足元では先ほどあった国際商品市況の上昇に加えて円安が徐々に進んでおりまして、こうした資源高の中で円安が進むということはコストプッシュということで、企業の収益とか家計にも影響を与えると思うのですが、総裁は現在の円安についてどのような日本経済への影響を、見解を持っておられるのか。 あと、すいません、関連でイールドカーブ・コントロール政策なんですが、これは長期金利を【低利に 00:17:00】抑制することで内外金利差を拡大し、そもそも円安を流すという、そういう側面もあると思います。現在の円安がイールドカーブ・コントロールの政策による波及効果の1つとも言えると思いますが、総裁はこれによって現在、緩和度合いが強まっている、緩和効果が強まっていると、そういう認識をお持ちなのかどうか、お願いいたします。 黒田:為替相場の水準とか短期的な動きについて、具体的にコメントすることは差し控えたいと思いますけれども、一般論として為替レートの経済への波及経路が若干変化してきているということは事実であります。すなわち、この円安によって輸出が増加するという度合いは、わが国の企業が海外生産の拡大等を通じまして従来よりも低下しているとみられるわけであります。 ただ、反対に円安が企業収益を押し上げる効果は、今申し上げたような海外【一極 00:18:08】生産の拡大と、海外子会社の収益の増加などを通じてより大きくなっているわけであります。これはグローバル展開する企業が円安局面では賃上げや設備投資を積極化しやすいということを意味していると思います。もちろん他方で、この円安はエネルギー等の輸入コストの上昇を通じて、原材料輸入比率の高い内需型企業の収益、あるいは家計の実質所得に対する押し下げ圧力として作用しうるという面はあると思います。 円安がわが国経済全体に与える影響というのは、さまざまな要素の相互作用で決まってくるので、その時々の内外の経済物価情勢によって変化しうると思いますけれども、現時点で、この若干の円安ですけれども、これが何か悪い円安とか、日本経済にとってマイナスになるということはないと。むしろ先ほど申し上げたような輸出への影響、それから海外子会社の収益の増加といったことを通じて、プラスの効果があるというふうにみております。