関学が日大に快勝した甲子園ボウル…反則タックル問題の辛い過去を乗り越えた両チームが示した素晴らしい現在と未来
日大は加害者側だが、選手に罪はない。そういう指導体制を見逃してきた日大という大学の体質に問題はあったが、公募でOBではなく、むしろライバルだった関西の立命から監督を迎え入れて、チームを3年でゼロから作り直してきた。 橋詰監督が言う。 「僕が来たのはチーム作りをしたい、チーム作りを通じて学生を育て、成長してもらいたかったから。彼らは、いろいろなものを乗り越えてきた。それを糧にできるような、強い心をもって、なにごとにでも挑んで欲しかった。今日も最初から最後まで前向きに戦っていた。フットボールがうまくなった、というのもあるが、人として成長してくれたのがうれしい。どんな大人になってくれるか、楽しみです」 点差が開けば開くほど、サイドラインから仲間を励ます声は、日大の方が大きくなっていた。 141ヤードを走り、敢闘賞を獲得したエースランナーの川上理宇が言う。 「あの事件があり、多くの方に迷惑をかけた。一番迷惑をかけたのが関学さんだった。因縁というより、あの事件を忘れてはいないが、あの事件を無しにして、アメリカンフットボールというスポーツでぶつかりあえる最高の舞台だった」 まさに川上の言葉に集約された試合だった。 「人生のなかで、この1日は忘れられない1日であり、学生のフットボールを終えた1日でもあった。4年間仲間と戦えたことに誇りを持てた1日だった」 そう言って川上は照明のつけられた甲子園のネット裏の観客席で耐えきれなくなって号泣した。 QB林も「辛いことは、どんだけあんねんというくらいあったんですが、ここで仲間と戦えたことで忘れました。僕らが勝つ運命と思ってきましたが、この後の人生、まだまだ頑張れ!という意味で負けさせられたかなと思っています」と言って涙ぐんだ。 日大の前監督の指示を受け、反則タックルを仕掛けた当事者の宮川泰介は、その後、日大に復帰、現在は社会人の富士通でフットボールを続けている。 その富士通は、社会人ナンバーワンを決める「ジャパンエックスボウル」(15日・東京ドーム)でオービックと対戦する。勝者は学生王者と社会人王者が激突する「ライスボウル」へ進出するため、富士通が勝てば、奥野と宮川泰介は、2年前の、あの日、以来、フィールドで対峙することになる。 その可能性を聞かされた奥野は、一瞬、驚いたような顔をした。 「今知ったんですけど、対戦できたらいいなと思います」 過去があるからこそ現在があり未来がある。 そして辛い過去を素晴らしい未来に変えることができるのがアメリカンフットボールの魅力なのかもしれない。