関学が日大に快勝した甲子園ボウル…反則タックル問題の辛い過去を乗り越えた両チームが示した素晴らしい現在と未来
パスは投げないはずだった。 だが、橋詰監督がコールを出すと林は投げてみせた。 「僕の代わりに4番の小野にパスを投げてもらって僕は一切投げないプレーでいこうと思ったんですが、監督がパスプレーをコールした、なにがなんでも通すという気で投げた」 ロングは投げることはできないがセンタースクリーンパスは機能した。 1年の甲子園ボウルでスターになった林は、その年のミルズ杯に輝いている。だが、反則タックルの問題が起き、チームは1年以上の出場停止処分を受け一部リーグ下部の「ビッグ8」からの出直しになった。 「2年前に事件がおきてから、アメリカンフットボールができることへの感謝しかない」 だから林は、この日も深く礼をしてからフィールドに入った。 だが、関学はパスを制限されたオフェンス力で勝てるほど甘い相手ではなかった。 関学は最初のシリーズから仕掛けてきた。キックオフリターンをいきなりリバース。ボールを持ったエースRBの三宅昂輝は、左のサイドライン沿いを72ヤードも走った。日大の度肝を抜くロングゲインである。 「一発目から流れをもってこれた」 さらにサードダウンで主将のRB鶴留輝斗をQBの位置に置き、奥野をレシーバーとして配置するフォーメーションで幻惑させ、このシリーズの先制点につなげた。 「5本(35点)は取れると思っていた」 大村監督のオフェンス力への自信が「苦しいと思っていたオフェンスラインが頑張った」ことで確信へと変わる。 第4Qに日大のエースRB川上理宇の78ヤードの独走タッチダウンで7点差に迫られたが、すぐさま奥野が糸川への24ヤードのタッチダウンパスを通して突き放し、10分14秒には、RB三宅がまたリバースプレーから右のオフタックルをついて53ヤードを走り抜けて勝負を決めた。 新型コロナウイルスの影響で開催が危ぶまれたため、甲子園ボウル用の芝の養生が間に合わず、今年は31年ぶりにフィールドの半分が土のグラウンドという異例の事態になった。試合後、選手が「滑った」と証言するほど、土のグラウンド部分は走りにくかったため、それが最後の最後に試合の勝敗に影響を及ぼすのではないか、とも予想されていたが、そんな接戦のゲームにさせないほど関学は強かった。