果物と野菜への愛を極めた若冲の画巻に“仏”を見る。「開館5周年記念京都の嵐山に舞い降りた奇跡!! 伊藤若冲の激レアな巻物が世界初公開されるってマジ?!」(福田美術館)レビュー(評:小川敦生)
水墨の鶏に魅入られる
本展では、《果蔬図巻》のほかにも、同館が所蔵する若冲の作品が30点ほど出品されている。筆者が改めて魅入られたのは、鶏を水墨で描いた屏風だった。《鶏図押絵貼屏風》、若冲82歳のときの作という。 筆者が見たときは右隻が展示されており、その6つの面のそれぞれに、ポーズがまったく異なる鶏が描かれていた。《動植綵絵》のような彩色画では細密に描いているが、水墨で描いたこの屛風絵には、むしろ鶏というアクティブな動物が持つ激烈な勢いが感じられる。鶏の足元に目を向けると小さく2羽のひよこが描かれているのも、なかなか楽しい。 極彩色の鶏の絵も展示されているので、併せて紹介しておこう。若冲77歳頃の作品という《群鶏図》だ。若冲が描く鶏には雄鶏が多いというが、この絵では雄鶏だけではなく、雌鶏とひよこを描いている。鶏の親子でS字を描いているのは、若冲の構図の妙だ。
略筆だからこそほとばしり出る生命感
細密に描く能力のある若冲だが、鶏に限らず、水墨で描く略筆の作品には尋常ならざる魅力がある。なかでも、この馬の絵はちょっとすごいと思う。 まず、半身しか描いていないところが面白い。それなりに大きな絵であるにもかかわらず、顔をはじめとして相当な略筆で描かれており、体や足を表した太い線が、馬という動物がもともと持っているパワーを表現している。薄墨で描かれたたてがみの描写も、素晴らしい。馬が前足を上げた反動を描き出しており、全体的に動感の表現が半端ないのだ。 若冲は少々変わった動物も描いている。《霊亀図》と題されたこの絵に若冲が描いたのは、亀に似た霊獣だ。甲羅の模様を、紙の性質とにじみを利用して筋を出す「筋目描き」という若冲特有の技法で描いているのも興味深い。そして、尻尾の大ぶりなこと。画面から大きくはみ出している。それゆえ鑑賞者の頭の中で空間が大きく広がるのは、《馬図》にも通じる。 それにしても、顔がりすのようでかわいい。竜などの架空の動物や妖怪を描くことは、日本美術史のうえではしばしばあったが、こんなにかわいい霊獣を描き出すとは。家に飾りたくなる逸品である。