果物と野菜への愛を極めた若冲の画巻に“仏”を見る。「開館5周年記念京都の嵐山に舞い降りた奇跡!! 伊藤若冲の激レアな巻物が世界初公開されるってマジ?!」(福田美術館)レビュー(評:小川敦生)
白黒反転の世界を創出
《乗興舟(じょうきょうしゅう)》という、白黒を反転させた少々変わった趣向の絵巻物が出品されていたので紹介しておこう。 若冲が50歳の頃、梅荘顕常(大典)という禅僧とともに淀川を下った経験をもとに、京都から大坂(大阪)までの川沿いの風景を若冲が描き、大典が短い言葉を添えていった絵巻物だ。白黒が反転しているのは、版画の技法を使っているからだが、拓本を取るときのように、版木の上に紙を置いて表から墨を載せて形を写し取るという特殊な技法で制作することによる。まるで夜景を描きだしているかのようにも見え、強いインパクトを出すことに成功している。 極彩色で細密な絵、略筆の水墨画、拓本の原理で制作した版画の技法による絵巻物など、若冲は多くの技法を試み、それぞれの特性を生かしたじつに素晴らしい作品を多く残した。おそらくは、好奇心と実験心がものすごく旺盛な画家だったのだろう。現代の人々の目をも多く楽しませてくれるゆえんである。
小川敦生