日本最高齢、16頭の父となったグルメなパンダを無事中国へ――飼育スタッフの試行錯誤と奮闘
中国以外で世界一の繁殖実績 その要因は?
そんな永明は、2022年9月に日本最高齢の30歳を迎えた。飼育下のパンダの平均寿命は20歳前後といわれる。16頭もの子をもうけ、「グレートファーザー」と呼ばれるようになるとは、誰も想像しなかっただろう。 永明のもと、たくさんのパンダが生まれたAWは、中国以外で世界一の繁殖実績を誇る。世界で初めて、中国とのパンダ長期共同繁殖研究に取り組んだ動物園でもある。 1980年、全世界でパンダの飼育頭数は99頭。そのうち92頭が野生、飼育下で繁殖したパンダは7頭のみだった。87年、飼育下のパンダを保護するために四川省成都ジャイアントパンダ繁育研究基地が設立され、国際的な支援が求められると、AWは寄付に協力した。 88年には成都動物園から、2頭のパンダが3カ月の短期で来園。そして、繁殖を目的として所有権を移動させずに動物を貸し借りするブリーディングローン制度を利用し、94年、オスの永明とメスの蓉浜(ヨウヒン)がやってきた。共同繁殖研究のスタートだ。
当時を知る中尾さんはこう語る。 「世界で最初の試みになったのは、いろいろなことが重なってのことだと思います。88年から中国動物園協会と交流し、信頼関係が構築されていましたし、あとはやはり熱意でしょうね。当時、私は新人でしたが、上司が日本の省庁にも中国にも粘り強く許可を求めに行っていました」 ところが、97年に蓉浜が死亡してしまう。繁殖研究はいったんストップするも、2000年にメスの梅梅(メイメイ)が来園し、再スタート。翌年、永明と梅梅の間で初めてパンダの赤ちゃんが生まれた。 現在に至るまで、12回の繁殖で17頭の育成に成功。永明を含む14頭のパンダが中国へと旅立ち、20頭以上の子孫が誕生している。繁殖の成果にはさまざまな要因が考えられるが、AWでは、親子が一緒に過ごす時間を長くすると将来の繁殖によい影響があると考え、実践してきた。 「多頭数を飼育できているのはメリットです。あるメスが発情すると、他のメスも発情したりしますし。いろいろな指標で総合的に判断しながら、繁殖のための工夫もします。オスとメスが同居するタイミングは、すごく慎重に考えますね。けんかしたらおしまいですから」