「もしも私があなただったら」をエンタメで体感させたい――なぜ、新海誠監督は東日本大震災を描いたのか #知り続ける
新海誠監督は、大ヒットした『君の名は。』以降、映画の中で隕石の落下や豪雨といった災害を描いてきた。そして、2022年11月に公開された最新作『すずめの戸締まり』では、東日本大震災を直接的に描き、観客を驚かせた。「『すずめの戸締まり』は『もしも私があなただったら』を想像させる映画です」という新海監督に、震災を描く意味について聞いた。(聞き手:藤田直哉/構成:長瀬千雅/撮影:伊藤菜々子/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
「なんてものを作ったんだ、許せないという方だっていると思う」
新海誠監督は、最新作『すずめの戸締まり』の主人公・岩戸鈴芽を、17歳に設定した。鈴芽は4歳の時に震災で母を亡くし、叔母に引き取られて九州の港町で育つ。 筋立ては、高校生の鈴芽がある目的を果たすために、九州から東北へ向かうロードムービーだ。東京を過ぎると、車窓には東北の被災地の風景が映る。鈴芽の実家があった場所はコンクリートの基礎部分しか残っておらず、それらを色とりどりの植物たちが深く覆っている。 『君の名は。』で隕石の落下により消滅する町を、続く『天気の子』では豪雨で甚大な被害に遭う東京を描いた。自然災害が重要なモチーフであることは知られていたが、『すずめの戸締まり』で直接的に震災を描いたことは、多くの観客を驚かせた。 ―― 舞台挨拶で東北各県にも行かれたそうですが、被災地のお客さんからはどんな反応がありましたか。 「宮城県や岩手県、福島県に舞台挨拶に行きましたが、東北の方々の前で話すのはとても緊張し、正直怖さも感じました。だけど、観に来てくれたお客さんと直接お話しして、『この作品を作ってもらえてよかった』といった言葉をいただきました。『自分は被災者だけれども、終盤で鈴芽がある少女にメッセージを伝えるシーンには、自分が聞きたかった言葉があった』とか、『自分はかつて(福島県)双葉郡に住んでいたが、芹澤(というキャラクター)が故郷を思わせる風景を見て“きれいだ”と言ったのがうれしかった』と言っていただけたりして、涙が出るくらい慰められた気分でした」