日本最高齢、16頭の父となったグルメなパンダを無事中国へ――飼育スタッフの試行錯誤と奮闘
2月22日、3頭は10時頃にAWを出発し、関西国際空港から旅客機と同じ飛行機に乗って、日本時間の23時頃、成都双流国際空港に到着。着いてからトラックで待機する間、永明はいつものように竹を食べ、桜浜、桃浜は寝ていることが多かったという。それから検疫の専用施設に入り、4月上旬から四川省成都ジャイアントパンダ繁育研究基地に移動している。 「移動直後は落ち着ける環境を整えてあげることが一番。パンダは物音にもすごく敏感なので、極力静かな環境を作る。それからやっぱりおいしい竹を用意することですね。AWだと10種類程度なんですけど、向こうでは40種類くらい用意できるそうなので、その中からいろいろと探っていく形だと思います」
おなかを壊しやすい永明 餌の試行錯誤に6年間
AWのスタッフは、永明が長旅の後、向こうの竹を食べていたことについて「よかったね! 食べてるって!」と喜び合っているのだそう。というのも、永明の「食」は長きにわたり、大きな課題だったからだ。中尾さんは、永明が中国から日本に来た頃のことをこう振り返る。 「永明は非常におなかを壊しやすくて、食べずに丸くなっちゃったり、下痢をしたり。日本に来たのは2歳を迎える頃で、まだまだ体重が伸びる時期だったんですが、1年くらいほとんど伸びなかった。来る時に中国のスタッフから教えてもらった餌は、『パンダ団子』という栄養豊富なものだったんです。どうもそれが合わないのではないかと思い、徐々に竹を中心とした餌に変えていきました。試行錯誤して、最終的にこれがいいという段階になるまで、6年かかりました」
体重、便の状態などのデータと、食べる・寝る・運動するといった行動を観察して記録。中国のスタッフや飼料を研究する専門家とともに検証を重ねた。ようやくよい形を見つけた後も、決まった餌を与えればいいわけではない。永明はグルメで、昨日食べた竹を今日食べるとも限らず、歴代の飼育スタッフは苦心した。真柴さんもその一人だ。 「永明は竹の選り好みがとても激しく、なかなか用意したものを食べてくれなくて。仕入れてきた竹を食べない時は、園内の竹やぶに入って取ってくるんですが、それも食べなかったりして大変でした。同じ種類の竹でも、生えている環境で変わったりする。食べなくて健康管理が難しいなか、どうしたらいいか考える時間が多くなりました。それが自分の成長につながったと思います」 「永明大先生」と中尾さんも感謝している。 「永明には、たくさん勉強させてもらいました。何かうまくいかない時、どうしたらうまくいくか、すごく考えなければいけません。餌だけではなく、年をとってからの健康問題もあります。永明でトライしたことを、他のパンダではより早い時期から実践できるんです」