アイデアの源泉はYouTubeとサラリーマン生活から──「文学界の東大王」が仕掛ける、伏線と謎解きの「おもてなし」
新進気鋭のミステリー作家、結城真一郎(31)は、開成中高、東大法学部出身。 “文学界の東大王”が突き付ける謎解きに今、多くの人々が興奮し、最新短編集が1か月で11万部を突破するなどファンは増える一方だ。リモート飲み会、マッチングアプリなどをモチーフに描かれる作品たちは、コロナ以前には産まれ得なかったものだろう。リアルな現代を切り取ることができるのは、「本業」のサラリーマン生活で社会との接点を持ち続けているから。旬の情報は、YouTubeやTwitterから拾い集める。そんな注目の頭脳明晰作家が答えに窮した、「とある質問」とは……?(取材・文:山野井春絵/撮影:殿村誠士/Yahoo!ニュース オリジナル特集編集部)
学生時代は本当にカスみたいな生活をしてました
デビュー4年、あれよあれよという間に人気作家の仲間入りを果たした結城。 最新作「#真相をお話しします」は発売から1か月で11万部を突破し、ミステリージャンルでは異例の売れ行きを示している。 彼が作家を志したのは、開成中学の卒業文集に向けて執筆した「バトル・ロワイヤル」(同じクラスの中学生が殺し合いを強いられる設定の小説)のパロディ(原稿用紙600枚!)が同級生とその保護者たちに大受けしたから。その後開成高校から東大法学部へ進む。 「親には申し訳ないんですけど、学生時代は本当にカスみたいな生活をしてました。授業にはほとんど出ず、アルバイトに明け暮れて、飲み会や旅行三昧。試験直前になるとギリギリで叩き込んで、なんとか単位を取ってやり過ごす……いわゆる世間が揶揄するような、自由を謳歌しているおバカな大学生そのものでした。それでも、きっと作家になれるだろうという根拠のない自信だけがありました」 そんな中、大学の同級生だった辻堂ゆめが「このミステリーがすごい大賞」でデビュー。「鼻っ柱を折られた気がして」、その敗北感から奮起し、ふたたび小説執筆に取り組むようになる。
一般企業に勤務しながら、兼業作家として活動中
「中学3年生のなんでもない馬の骨が文集に書いた小説が、大人たちからも大受けしたことで、ある程度文章で勝負できるんじゃないか、という思いは持っていました。この小さな成功体験と、自分が密かに抱いていた夢を同級生に実現されたというショックが、僕を執筆に駆り立ててくれたと思います」 賞をとり、作家としてデビューし、さらに売れっ子になる。それはある意味、どんな難関試験に合格するよりも確率の低いもの。まして学部内で夢を成し遂げた人がいて、そのすぐそばで二匹目のどじょうを掴むなど、とても現実味がないように思える。 「いや、だからこそ、可能性ゼロじゃないんだろうなって思って。自分の夢というか、漠然と思ってたものを叶えた先人が同級生だった。悔しいと同時に、ああ、なら自分もできるな、と。まあ負けず嫌いというか、悔しくてたまらないという気持ちが原動力になりました」 在学中のデビューこそ果たせなかったが、就職した後、二度目に応募した作品で賞を受け、今に至る。現在も一般企業に勤務しながら、兼業作家として活動中だ。 「会社員であること、社会と接点を持ち続けることは、執筆に絶対プラスになると思っているので、体力と時間に折り合いが付く限りは、今のままでいいかなと思っています。仕事がメインで、帰宅してから執筆をすることもあればしないこともあり、隙間時間とか、休日にまとめて書くことが多いですね。基本的には、もう本当に普通の、なんの変哲もない会社員生活。ノルマを設定すると苦しくなるので、書ける時気の向くままに、流れに乗って」