消えたい気持ちを抱えて生きてきた──不登校や誹謗中傷、原発移住を経た、金原ひとみの「苦がない」今
2004年、『蛇にピアス』で芥川賞に輝いた金原ひとみの人生には不登校、誹謗中傷、原発事故に伴う移住時のバッシングなど、ネガティブなワードが並ぶ。幼い頃から「消えたい」という思いを抱え続けてきた彼女が、「苦がない」状態に行き着くまでの道筋をたどった。(文:岡野誠/撮影:木村哲夫/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
“消えたい”という衝動がずっとある
「『生きているだけで幸せだ』『生きてるだけで偉い』というようなフレーズって、SNSでバズりがちですよね。もちろん、その励ましに救われる人だっている。ただ、世の中には『自分が存在していないほうが正しい』と感じている人もいます」 希死念慮――。具体的な理由はないが、漠然と死を願う状態をそう呼ぶ。 「今、世界全体がいろんな人に配慮しようと少しずつ動いていますけど、希死念慮はこぼれてしまっている。私にも“消えたい”という衝動が程度の差はあれどずっとどこかにあります。そういうとき、ポジティブな言葉を掛けられても響かないし、むしろつらい。そんなことを言い始めたら何も言えなくなってしまうかもしれません。でも、“いいね”が付くような言葉では救えない人にとっては、『生きてほしい』とか『死なないで』とか、そういう言葉が堪え難いほどつらいものになる可能性もあるということを考えてほしい。だから、私は“消えたい”という感覚を否定も肯定もしないでフラットに捉えたい」 デビュー以来、金原は心の奥底で思っていても口に出せない、SNSに書いたら炎上するような言葉を拾い上げ、シンパシーを得てきた。 「“いいね”が付くような話には、私もだいたい共感します。でもそれは、流れゆく景色のようなものに近いと思います。中2の娘がスマホでTikTokやインスタを見ながら、“いいね”をつけていく速度が半端ないんですよ。人間の身体には“いいね”のシステムが組み込まれつつあるんだなという変化は感じます。でも、そういう投稿って、すぐ忘れちゃうじゃないですか。もっと、自分とともに生きてくれる言葉や体験を大切にしていきたいんです」