アイデアの源泉はYouTubeとサラリーマン生活から──「文学界の東大王」が仕掛ける、伏線と謎解きの「おもてなし」
SNSを利用した、引っかかりと拡散を意識する作品づくり
理想は、驚き、悔しさ、納得感の三拍子が揃ったミステリー。作者と読者の知恵比べをバチバチにやり合う感じが最大の魅力だと語る。そんな結城が読者ターゲットとして想定するのは、筋金入りのミステリーマニアたち、だけではない。 「自分の中では2軸あるんです。ミステリーが大好きで、死ぬほど読んできましたみたいなマニアたちに、とんでもないミステリー作家が現れたという衝撃を与えたいというのが一つ。もう一つは、ふだんミステリーはおろか本なんて読みませんっていう人たちが、それでもちょっと思わず手を伸ばしちゃうような話を書きたい。そういう二つの思いが並行して走っている感じ」 「やっぱり同世代とか若者に届けたいという思いが強い。というのも、若者の読書離れと言われているのは、ちょっともったいないなっていう思いがあって。僕もYouTubeばかり見ていますけど(笑)、やっぱり本が好き。若い世代の皆さんに、余暇の選択肢の一つとして本をノミネートしてもらいたいな、という思いがあるので、そこはけっこう意識してやっていますね」 タイトルにハッシュタグをつけたり、現代的なキーワードを利用して目に止まりやすく工夫するなど、結城はSNSを利用して、引っかかりと拡散を意識した作品づくりを心がけている。その戦略性とセルフプロデュース力の高さは、これまでになかった作家像といえるだろう。
「その上で手に実際取ってくださる方が何人いるか分かりませんけど、読み始めた時に、『あ、自分にも読めるかも』って思ってもらえるのが次の関門。そこをクリアするためには、序盤、開始1行で何かちょっと物事が動き始めるとか、1ページ読んだ時点で、自分とそう遠くない世界のことが描かれていると思ってもらうことが重要だろうと」 ストーリー、人物設定、トリック、伏線、どんでん返し……結城がミステリー作品を書く上で、一番大事にしていることは何なのだろうか。 「どんでん返しの方がウケるとは思うんですけど、どんでん返るかどうかは、あまり重要視していないですね。ばらまいた伏線が、最後に一つのものとして結実するというところに美学を感じるので。まとまる瞬間の気持ちよさみたいなところが好きですし、求めたいところではありますね」 では、ミステリー作家結城真一郎にとって“伏線”とは? 何気なくこう投げかけると、それまでどんな質問にもよどみなく答えてきた結城が、目をしばたかせて動きを止めた。