アイデアの源泉はYouTubeとサラリーマン生活から──「文学界の東大王」が仕掛ける、伏線と謎解きの「おもてなし」
「趣味はYouTubeです」って、そんな作家ダサいかなと思いつつ
ミステリーのアイデアは、自宅近くにある隅田川沿いを中心に、都内を歩き回って考えている。一度の散歩は、最低1時間。長いときは2、3時間にも及ぶ。 「こんなアイデアでいけそうかな、みたいな、一つとっかかりのようなものを持った状態で、ひたすら歩き回るんです。一箇所に留まっていると、どうしても次へ進んでいかないというか、そこからどのように物語が転がっていくかという部分がなかなか膨らまないので。体を動かすことが刺激というか、カンフル剤になっているのかな、と思います。ただ黙々と、とりとめもなくいろんなことを考えながら、ひたすら歩き続けています」 実生活での観察、経験に加え、結城の作品づくりに一役買っているものがある。それはYouTubeだ。大学生の頃から暇さえあれば、Youtuberのチャンネルを見て回ってきた。特によく見ているのは、東海オンエアとQuizKnock。 「彼らの思いつくアイデアって、奇想天外なことが多くて。なんでこんなことやってみようと思ったんだろう?って、びっくりするんですよ。若い人たち、YouTubeに慣れ親しんでいる世代が何を面白がっているのかを知る手がかりにもなります。常に、若い世代の情報を知るために……ってカッコつけてますね、純粋に好きなだけで。『趣味はYouTubeです』って、そんな作家ダサいかなと思いつつ(笑)。創作の刺激には、なってます。同世代を見回してみてもたぶん、僕は相当見ている方。話に上がると、『よくそんなの見てるね』とか、『そんなところまで追いかけてるの』ってよく言われるんで」
「悪ガキ気分で」書いている
自らの情報を積極的に公開することはないものの、SNSも情報収集の手段の一つとして活用している。 「例えばフォローしている誰かがリツイートしてるとか、大勢がコメントしてるとか、そういうものに着目することは多いです。何が一番世間で注目を浴びているんだろう、どんなものに興味があるんだろうという情報は、Twitterから得ることはままありますね。新聞も取ってますけど、ネタを探すという感じではなくて。ネットに軸足を置きがちかな、と思います」 書くときは、音楽を聞いて外界を遮断。日本語や英語の歌詞だと内容に引きずられてしまうことがあるので、なるべく意味のわからない異国言語の音楽を選んでいるという。執筆を始める前には「願掛けのような意味合いを込めて」、エナジードリンクを飲む。 「飲んで書きはじめた時に、すごく気持ちいい日が何回か続いた経験を踏まえて、それなしでは書き始められない体に(笑)」 ミステリー小説を読む快感は、最後に「してやられた」感が強いほど倍増するもの。想定通りの結末は、作者を出し抜いた優越感こそ多少得られるものの、読後の余韻は薄くなる。まさに、作家から読者への挑戦状。結城は、作品を「悪ガキ気分で」書いているという。 「どこに仕掛けを潜ませてやろうとか、どういう書き方をしたら驚いてもらえるかな、みたいな悪巧みをしている楽しさがあるんですよね」