【豪SNS禁止法成立】なぜSNSが「子どもの心」を不安定にするのか? 超進学校・開成の元校長が中高生に薦めたい一冊を語る(レビュー)
SNSの影響で凶悪犯罪が多発
オーストラリア議会が法案を可決した「16歳未満SNS使用禁止法」は、国内外で大きな反響を呼んでいる。 しかしながら、日本ではまだどこか他人事という受け止め方もあるようだ。世論の反発や実現性の低さ、さらに新聞やテレビに関しては巨大スポンサーへの忖度などさまざまな理由が背景にはあるだろう。 大抵の場合、この件について伝えるテレビのニュース番組は同じような構成だ。まずオーストラリアの法案通過と現地の声を紹介したのちに、日本国内の「街の声」のVTRが流れる。 「嫌だ」「もしも日本がそうなったら困る」という10代の感想、「やり過ぎ。問題は使い方であって、SNSそのものではない」という大人の意見、それに対して「子どものうちは制限があってもいいのでは」という理解を示す声……。これを受けてスタジオでは識者やキャスターが「なかなか難しい問題ですね」と言って締めくくるというパターンだ。 一応、実際にSNSいじめがもとで息子を亡くしたオーストラリア人男性のインタビューが紹介されることもあるものの、全体としては「随分過激な法案が通ったものですね」というトーンが目立つ。 だが、彼らも好き好んでこのような法案をわざわざ通したわけではない。見過ごせないケースがあまりに続いたことが背景にある。 いじめ、他人の充実ぶりを見ることによる自己肯定感の喪失、あるいはデマの拡散などだけが問題ではない。たとえば今年4月に起きたのは、「凶悪犯罪の拡散」とも言うべき事件だった。シドニーのショッピングモールで40歳の男性が起こした無差別殺傷事件の現場を捉えた動画が拡散された後、類似の事件が連鎖的に発生したのだ。中には15歳の少年が聖職者らを負傷させるという事件もあった。 動画に影響を受けたと見られる若者の凶悪事件が多発し、社会問題化しているのだ。
開成中学・高校元校長の心配
むろん、影響は未成年だけに留まるものではない。が、やはり分別のつかない子どもへの悪影響がより深刻なのは言うまでもなかろう。 10代のメンタルが危ない――。2021年、ユニセフは世界の10~19歳の若者の7人に1人以上が心の病気の診断を受けていると報告し、米国のCDC(疾病予防管理センター)は2023年、10代のメンタルヘルス問題は「国家的危機」とまで警告した。日本でも2022年に自殺した小中高校の児童・生徒は過去最多となっている。 そんな“危機的状況”のなか、東大合格者数1位の座を42年間にわたって守る超進学校、開成中学校・高等学校校長を2020年まで9年務めた東大名誉教授の柳沢幸雄氏が、「中高生に一度は手に取ってもらいたい」と語る一冊がある。世界的ベストセラー『スマホ脳』の著者で精神科医のアンデシュ・ハンセン氏が上梓した『メンタル脳』(新潮新書)だ。 ハーバード大学で教鞭を執った経験もある柳沢氏が若者に勧める『メンタル脳』とは、どんな本なのか。また、氏が明かした中高一貫教育への持論とは(以下、2024年2月12日配信記事をもとに再構成しました)。 ***