日銀がビハインド・ザ・カーブに陥るのは贅沢な悩みか 日本のインフレはもう終わる?
2024年度も高インフレが続く物価見通しですが、日銀の金融政策は後手に回る恐れは強まるのでしょうか。第一生命経済研究所・藤代宏一主席エコノミストに寄稿してもらいました。 【写真】来春にも日銀はマイナス金利解除? でも意外にも高いハードル「3つの負」
賃金インフレとは呼べない水準の賃金上昇率
日銀の金融引き締めが後手に回ってしまい、インフレ(賃金と物価)が加速することで急速な利上げを迫られる、いわゆるビハインド・ザ・カーブに陥るとの懸念があります。しかしながら、それは贅沢過ぎる悩みに思えて仕方がありません。 まず賃金上昇率が十分でありません。ここへ来て2024年度の賃金上昇率は、出来過ぎた感のあった2023年度を超す可能性が浮上してきましたが、それでも日銀の物価目標を上振れ方向に脅かすほどではないでしょう。一人当たりの賃金動向を映し出す毎月勤労統計の所定内給与は2%をやや下回る水準で推移し、2024年度も同程度かそれ以上の推移が予想されています。そうなればいずれも1990年代半ば以来の強い伸びとなります。ただし、それでも2%程度の領域に過ぎません。賃金インフレと呼ぶには相応しくなく、ましてやそれに金融引き締めを講じるのは違和感を禁じ得えません。 そして、さらに物価上昇率も下がり始めています。11月の東京都区部CPI(除く生鮮食品)は前年比+2.3%まで縮小しました。実質個人消費支出が2四半期でマイナスとなり、街角景気を反映する景気ウォッチャー調査が低下基調に転じるなど個人消費の弱さを浮き彫りにするデータが増加する中、企業が値下げによって需要を掘り起こそうとする姿が垣間見えます。11月の東京都区部消費者物価を基にすれば、10月の段階ではいずれの尺度も2%を超えていた日銀算出の「基調的なインフレ率を捕捉するための指標」も鈍化する公算が大きく、物価上昇率のモメンタム鈍化がより可視的になりそうです。
本当に2%インフレの定着を意味するかは微妙
日銀が10月末に発表した経済・物価の展望レポートによれば、2024年度の物価見通しは+2.8%と高インフレが続き、3年連続で2%超の物価目標上振れとなります。ただしこれが本当の意味で2%程度のインフレ定着を意味するかと言えば、それは微妙です。というのも、2024年度の高い伸びは電気・ガス代の負担軽減策の縮小、すなわちベースエフェクト(比較対象となる前年の値が何らかの要因で低く出ると、翌年分の伸び率が高めに出る)によるところが大きいからです。 本来、エネルギーの輸入価格が急上昇した局面(主に2022年)に発現するはずだったインフレを繰り延べているに過ぎず、実際に企業が自らの意思で値上げを実施する、本来的な意味におけるインフレとはやや性格が異なります。いわば「値上げなきインフレ率拡大」という側面を有しており、そうした下では2025年度以降の人々が抱く予想インフレ率は徐々に低下していく可能性があります。こうした観点からも日銀がインフレ抑制を目的とする連続利上げに踏み切る姿は想像しにくいと考えています。マイナス金利を解除した後、日銀は政策金利を据え置くと予想されます。
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