日銀はマイナス金利撤回へどう理論武装する?「中立金利」に注目
日銀がマイナス金利の撤回に政策転換した場合、どのような説明を行うことになるのでしょうか。第一生命経済研究所・藤代宏一主席エコノミストに解説してもらいました。 【写真】続く物価高、日銀の金融緩和政策の変更はあるか? どうなる金融政策決定会合
利上げでも「金融引き締め」ではない?
筆者は2024年後半に日銀がマイナス金利撤回に動くと予想しています。ただし消費者物価が2%を大幅に上回る中、来年の春闘が再び強い結果になると予想できる状況になれば、その段階で日銀が動く可能性も否定できません。 その場合、日銀の説明は奇妙なものになるでしょう。「基調的な物価は2%を下回っている可能性が高い」という現在の説明は引き継がれる可能性が高く、日銀が3カ月に一度「展望レポート」で示す物価見通しは、見通し期間の後半に2%を下回る姿になるでしょう。ではなぜ利上げを講じるのかという疑問に対して、日銀は「金融緩和を長く続けるための措置」と位置付けた上で「金融引き締め」ではないことを強調する形になりそうです。 ここで、何をもって「金融緩和」「金融引き締め」とするのか、考え方を整理します。まず「利上げ」は金融政策の方向感に焦点を当てた場合、金融引き締めそのもので議論の余地はありません。もっとも、金利の水準感に焦点を当てるならば、利上げを実施しても政策金利が名目中立金利(以下、全て中立金利は名目)を下回っている限り、その状態は金融緩和的と言えます。したがって、利上げ(0.1%ポイント)によってマイナス金利撤回をしても、日銀は「粘り強く金融緩和を続ける」とする現在の表現をそのまま踏襲できます。これは7月28日のYCC(イールドカーブ・コントロール)柔軟化に際しての説明や、現在の田村委員の説明に近い論法です。 ここで、中立金利とはインフレを加速も減速もさせない金利水準と定義されており、それは人口動態(労働投入量)、生産性、インフレ率などから複合的に計算されます。ちなみに米FRB(連邦準備制度理事会)はそれを2.5%程度と見積もっています(ドットチャートの中央値)。その計算根拠はNY連銀によって0.5%程度と推計されている自然利子率に、物価目標(もしくは予想インフレ率)の2%程度を足したというのが一般的な解釈です。ゆえに、Fedは中立金利を超えた状態にある現在の政策金利(5.25~5.50%)を「十分に引き締め的な領域」としています。