JALのカスハラ対策 知っておくべき「2.5人称の視点」とは
「声をあげていい」と思えることが社員の安心感につながる
――取り組みの結果、具体的な効果や変化は見られましたか。 安部:お客さまからの著しい迷惑行為に対して、毅然とした対応ができるようになったという反応が現場からありました。これまでは、「どこまではサービスとして対応する必要があり、どこからがいわゆるカスタマーハラスメントに該当するのか」という明確な線引きがわからなかった、そもそも線引きしてよいのかもわからなかったといいます。しかし、会社としてカスタマーハラスメントにしっかりと向き合う姿勢と具体的な基準を提示したことで、社員が明確な後ろ盾を持って対応できるようになりました。これは大きな変化だと感じています。 土田:必要な際に毅然とした対応をとれるようになったことで、サービスに集中できるようになり、結果としてより良いお客さま対応につながっているといった声もありました。 ――カスタマーハラスメント事案の報告件数に変化はありましたか。 安部:判断基準を策定した時期が、ちょうどコロナ禍によりお客さまが極端に少ない時期と重なっていたため、定量的な変化をみることは難しいのですが、肌感覚としては、報告件数は増えているように思います。以前であれば報告されなかった案件もきちんと報告されるようになったのです。会社がカスタマーハラスメントに関する指針を出したことによって、「声をあげていいんだ」と感じてもらえているのではないでしょうか。 田中:研修や啓発の効果からか、大きなトラブルに発展する前に収められたケースも増えていると感じています。誠意を持って対応した上で「これ以降の対応はいたしかねます」と線を引くことで、お客さまも「わかった」と理解してくださることもあります。社員には「お客さまからの過度な言動によって、怖い、つらいと感じた際はその気持ちを表現してもよい」と伝えているのですが、そうした気持ちを伝えることで、お客さまに冷静さを取り戻していただけたケースもありました。会社の一連の取り組みによって、社員がハラスメント行為を我慢して受け入れることなく、必要な場合に毅然とした対応をとることへの後押しができたと感じています。 ――カスタマーハラスメントに遭った社員に対するメンタルケアなどで、何か実施していることはありますか。 土田:そうした事案が起きてしまった場合、会社は全面的に社員をバックアップし、社員個人の負担を最小限に抑える努力をすると、全社員にメッセージとして伝えています。 それでも大きな精神的な負担がかかることもあるため、心の不調を感じた際は社内の産業医やカウンセラーに相談できる体制を構築しました。グループを含めて全国各地に事業所や営業所があるので、 必要に応じて現地の外部機関と契約するサポートも本社で行っています。