JALのカスハラ対策 知っておくべき「2.5人称の視点」とは
事例を基にしたシナリオ集や研修コンテンツを作成
――カスタマーハラスメント対策における、具体的な取り組みについて教えてください。 田中:まずは先ほどお伝えしたとおり、厚生労働省によるマニュアルを参考に自社でのカスタマーハラスメントの判断基準を策定しました。その基準を既存のお客さま対応マニュアルやガイドラインの内容に追記する形で社内規定の中に盛り込みました。さらに現場レベルで活用できるように具体的な事例を基にしたシナリオ集やQ&A集を作成し、既存の研修や訓練の枠組みの中に盛り込むことで、国内のJALグループ全体に向けて展開しています。 土田:シナリオ集やQ&A集の作成では、場面別に具体例を用意しました。お客さまからの要望に対して社員ごとに異なる対応をしてしまうと、「あのときはこうしてくれたのに」と別のご意見が発生してしまう可能性があります。そのため、具体的な事例を多く載せることで想定されるパターンを網羅し、誰が対応しても同じ回答ができるようにしました。 田中:併せてe-learningでの研修コンテンツも作成し、啓発を図っています。JALグループ社員3万5000人のうち、2万人が受講済みです。特に顧客接点の多いサービスフロントの社員には重点的に視聴してもらうことを意図していますが、社内のイントラネット上に掲載し、JALグループ社員であれば誰でも閲覧できる状態にしています。 ――研修コンテンツやシナリオ集などは、お客さまサポート室で作成されているのでしょうか。 田中:はい。客室部門や管理職層などから具体的な事例が報告されてくるため、それらを参考にしながらお客さまサポート室で教材を作成しています。とは言え、我々の力だけでは難しいため、法務部スタッフや社外弁護士など法律の専門家、安全推進本部や各サービスラインの空港本部、客室本部などの関係部署と連携しながら教材を作成しています。 内容に関しては、カスタマーハラスメント対応だけにフォーカスしないように気をつけています。サービス品質を向上させること、お客さまの意見や要望に対して誠実に対応することが大原則であることを再確認します。それでもトラブルになってしまったケースに対してはこのように対応していきましょう、という一連のストーリーで伝えることを意識しています。 ――シナリオなどでは、例えば顧客の発言内容や拘束時間など、毅然とした対応に移る際の具体的な目安も示されているのでしょうか。 安部:これ以上のことがあった場合はカスタマーハラスメントとして毅然とした対応をしてよい、という一定の目安を示してはいます。ただ、その目安に達したからといって機械的に線引きするのではなく、あくまで一例として伝えています。その時々によってお客さまの置かれている状況やそれまでのやりとりの経緯、 きっかけが私たちの不手際の場合であれば、その度合いも違うので、総合的に判断し適切に対応する必要があります。 一例が示されていなかったときは、明らかに理不尽な状況でも「我慢しなければ」と思っていた社員たちが、「理不尽な状況ではNOと言っていいのだ」と思えるようになったという点で、基準を示した意義があったと思います。 ただ、先ほどの2.5人称の話にもつながりますが、お客さまの声を誠実に傾聴して共感することが大前提です。それでも度を越していると判断される場合や、他のお客さまの迷惑となるような場合には毅然とした対応が必要ですが、あくまで前提を忘れないことをセットで伝えるように意識しています。基準は判断を助けるものではありますが、あくまで基準です。個々のお客さまの声を傾聴して、状況によって判断していくことが一番大切です。 田中:マニュアルを整備することも大切ですが、画一的にしすぎないことも大切です。我々としては、多様な事例を共有することで継続的に粘り強く浸透させていきたいと考えています。