宇宙は無数に存在するのか…謎に挑み続ける物理学者たちがたどり着いた「意外な答え」
超弦理論を開いたら、無数の宇宙があった!
――超弦理論には、素粒子の間に働く「電磁気力」「弱い力」「強い力」「重力」の4つの力がすべて含まれているのでしょうか。 野村:含まれています。というか、実は超弦理論には「いろいろなものが入りすぎて」いるのです。その一つが余剰次元です。超弦理論では、我々が住む世界は、一般的に認識可能な四次元ではなく、十次元になります。また、超弦理論を使うと標準模型以外の力も簡単に出すことができます。 ちょっと余剰次元の形を変えたりすると、僕らが見ている標準模型の世界にそぐわない、たくさんの世界が出てくる。「いろいろな宇宙がある」ということです。それが、マルチバースです。 ――スティーブン・ワインバーグ氏は1980年代から「マルチバース理論」を予測していました。彼は、どのような過程を経てマルチバース理論にたどり着いたのでしょうか。 野村:ワインバーグは、超弦理論とは別の方法でマルチバース理論に行き着きました。 真空のエネルギー密度の絶対値は、理論的にざっと見積もると10⁹⁰g/cm³というとんでもない値になる。しかし、観測値により、10⁹⁰g/cm³よりも120桁近く小さい値が真空のエネルギー密度の上限値とされていました。120倍ではなく、120桁です。多くの物理学者たちがこの問題に取り組みましたが、理論的に真空のエネルギー密度を小さくすることはできませんでした。 そこでワインバーグが考えたことは「いろいろな真空のエネルギー密度を持つたくさんの宇宙がある」ということでした。10¹²⁰個以上の宇宙があれば、自然な値より120桁小さい真空のエネルギー密度を持った宇宙があっても確率的におかしくありません。 さらにワインバーグは、真空のエネルギー密度が現在の宇宙の物質のエネルギー密度である2.7×10⁻³⁰g/cm³と同程度以下でなければ、宇宙には我々自身を含む、一切の意味ある構造が生じないことを示しました。これは逆に言えば、我々のような高等生命体が宇宙を観測したときには、つねにこのような小さい真空のエネルギー密度を見い出すということを意味します。 ワインバーグは、このような理由で我々の宇宙の真空のエネルギー密度が小さくなっているのならば、それは将来の観測で見つかると予言しました。なぜなら、この考えでは、真空のエネルギー密度は現在の宇宙の物質のエネルギー密度よりはるかに小さい必要はなく、またそうである理由も存在しないからです。 ワインバーグがはじめにマルチバース理論に関する論文を発表したのは、1987年のことでした。当時は真空のエネルギーはゼロであると考える科学者がほとんどでした。しかし、1998年に宇宙の加速膨張が観測的に捉えられました。このようなことは、宇宙に真空のエネルギーが存在するときにのみ起こります。そのとき、物理学者たちはワインバーグの真空のエネルギー密度とマルチバース理論を予測した論文を思い出したのです。 そうやって真剣に考え出すと、宇宙がたくさんあることを説明する理論が必要になります。そこで、そのようなたくさんの宇宙が、自動的に含まれている超弦理論が再び脚光を浴びます。次に、「たくさんの宇宙は実際にどのようにして生まれるのか」という疑問が生じ、インフレーション理論が注目されました。インフレーション理論では、宇宙が無数に作られ続ける現象である「永久インフレーション」が起こるとされていたからです。こうして、1970年代から1980年代にかけて予測されていた3つの理論が、21世紀に入ってどんどん繋がっていきました。これはすごいパワフルな議論でした。