宇宙は無数に存在するのか…謎に挑み続ける物理学者たちがたどり着いた「意外な答え」
信じるか、疑うか
――本書を通して、物理学に限らずサイエンスの研究では「信じること」と「疑うこと」のバランスが非常に重要だと感じました。先生は、「信じること」と「疑うこと」のバランスをどのようにとっていらっしゃるのでしょうか。 野村:「疑うこと」と「信じること」のバランスはとても難しいです。大天才と言われたアインシュタインでさえも、自身が書いた一般相対性理論の式を疑ったことがあります。 式を宇宙に当てはめてみると、宇宙は膨張しているか収縮しているかのどちらかだ、ということになってしまう。当時は、「宇宙は常にそこにあるもの」と考えられていました。アインシュタイン自身も、そう考えていました。そこで、一般相対性理論の式をいじって、無理やり「宇宙は膨張も収縮もしていない」という理論にした。ところがその直後に、宇宙は膨張している、という観測結果が出てしまいました。アインシュタインは、相当ショックを受けたそうです。 1960年代に、ワインバーグとアブドゥス・サラム氏によって、2つの力を統一的に扱う「電弱統一理論」が発表されました。ワインバーグも、発表後に電弱統一理論の式に手を加えようとしました。最初に発表した式では、弱い力には、「荷電カレント相互作用」と「中性カレント相互作用」の2種類があるはずでした。でも、実験的に中性カレントが検出されなかったんです。 ワインバーグは、中性カレントが発生しないように電弱統一理論の式を変えようとしました。ところが3年後、中性カレントが発見されました。ワインバーグは、「科学者として一番脂がのっていた3年間を無駄にした」と晩年まで言っていたらしいです。 サイエンスの世界で「信じる」ためには、証拠がなければいけません。でも、理論の全てが実験で調べられて証拠が得られるわけではない。ある程度までの証拠を得た段階で、次のステップに行かなければなりません。段階の見極めには、センスが求められる。どのような研究テーマを選ぶのか、ということも同じです。いい研究テーマの選び方があるのだったら、教えてほしいですね。 結局は、自分のセンスを信じて、研究テーマを選ぶしかないですよね。研究者としてのキャリアを築いていくにあたって、若いうちから一流のところに身を置いて揉まれることで、センスは磨かれていきます。 ノーベル賞を受賞した学者の弟子が、後年になってノーベル賞を受賞する、ということはよくある話です。だから、僕は学生には、できる限りいい研究機関に行って、トップの学者と交わるように言っています。学ぶだけなら教科書を読むだけで十分ですが、研究者としてのセンスを磨くため、高いレベルでディスカッションをしてほしい、と思います。もちろん、最終的にはちょっとした運も必要にはなりますが。 (聞き手:関 瑶子、シード・プランニング研究員)
野村 泰紀(バークレー理論物理学センター長・カリフォルニア大学バークレー校教授)