ヨーロッパの見事な古地図とその世界観、天動説の下「異端と言えるほど過激」な地図も
13~19世紀初頭の地図を集めた「サンダーランド・コレクション」より
地球と星にまつわる謎に魅了されてきた人間は、太古の昔から、探求の成果をさまざまな形で記録してきた。2世紀中頃、エジプトの学者クラウディオス・プトレマイオスが、地図上の位置を表すのに等しく分けられた経緯線を使って地理学に革命がもたらされた。16世紀には地理学者ゲラルドゥス・メルカトルが3次元の地表を2次元に表現する独自の投影法を考案。この「メルカトル図法」は、今でも多くの世界地図で用いられている。 【関連地図】1566年のハート型の世界地図 中世ヨーロッパ(西暦500年頃~1500年頃)の世界地図は、航海のためと言うより、「人間の知識を視覚的にまとめたものだった」と、地図製作者のピーター・バーバー氏は言う。18世紀末までは米国のカリフォルニアが島として描かれているなど、今見ると思わず笑ってしまうような間違いはあるが、細部にいたるまで驚くほど正確に描かれている部分も多い。 2023年秋に立ち上がった「Oculi Mundi(オクリ・ムンディ、ラテン語で「世界の目」の意)」というデジタルプラットフォームのおかげで、こうした珍しい古地図をオンラインで見られるようになった。公開されているのは、13世紀から19世紀初頭にかけてヨーロッパの学者が細心の注意を払って描いた地図を集めた「サンダーランド・コレクション」で、地図製作法の進化をはじめ、過去の文明の歴史観や芸術的偉業に触れることができる。
天動説の下、てこで地球を動かす天使たち
長い間、地球は宇宙の不動の中心であり、太陽やその他の天体は地球の周りを回っているというプトレマイオスの天動説が信じられてきた。しかし1532年に神聖ローマ帝国の地図学者セバスティアン・ミュンスターが製作した地図には別の考え方が描かれている。天使たちがてこを使って地球を動かしているのだ。 Oculi Mundiを管理するヘレン・サンダーランド・コーエン氏は、ミュンスターが描いた地図は、繊細ながら画期的なものだったと指摘する。「当時としては異端と言えるほど過激な地図だったと思います」 丸い地球を平面に描くことは地図を作る者にとって難問だった。この問題を解決するため、イタリアの版画家ジョバンニ・チメルリーノは1566年に、南北米大陸を含め世界をハート型に描いた。 地球は他の惑星とともに太陽の周りを回っているとする地動説がまだ議論の対象だった1660年、アンドレアス・セラリウスは星図の最高傑作の一つとされる「大宇宙の調和」を製作した。この星図からは、昔の地図製作者たちが宇宙を描こうとした、緻密で大胆な努力の跡が見て取れる。