“保健所”って何? コロナ禍で見えた重要性と課題
危惧される“保健所崩壊”
コロナ禍において、都道府県が毎日感染者数を発表しているが、それは県、市、区など5種類ある保健所からファックス(FAX)などで送られる情報を基に集計し発表している。アナログ情報を基に作られることがこれまでは多かったとされ、この情報伝達にスピード感はなく、電子化の遅れが目立つ。そして、厚労省も各県からのFAX情報などを基に発表している。“緊急事態宣言”という割に、情報共有のネットワーク化、危機管理に即時性がないのが現状だ。 「保健所は悲鳴をあげています」 「電話相談が2月後半から一気に増え、多い時は1日に300件もあり大変だ」 新型コロナ対応で、現場からはこのような声が上がった。中には苦情やストレスで半ばパニック状態の人からの電話もがあり、1本の電話対応に30分以上掛ることも多いという。一方で、相談者側からも「電話が全然つながらない」という悲鳴も上がった。課題はどこにあるのか。 保健所の規模は様々だが、概ね50~55人態勢で、うち感染症を担当する保健予防の部署は10人足らずという所が多い。臨時に他から応援部隊を入れて凌く所もあった。コロナ感染の拡大で医療崩壊が喧伝(けんでん)されるが、実は「保健所崩壊」も危惧される状況だ。今後、第2次、第3次の感染拡大が心配される中、保健所のあり方はこれで良いのだろうか。 政府の専門家会議も体制強化を主張していたが、現場の話だと保健所が直面する最大の課題は「保健師の確保」と言われているが、有資格者の復職を求めても応ずる人は少ないという。
東京都でなぜ集計ミスが起きたか
そうした中、東京都は5月、感染者数の集計でミスがあったと発表した。感染者数に111人の申告漏れがあり、35人の重複計上まであった。111人中には死者4人も含まれるという。 なぜ、そんなことが起きたのか。ズサンな情報管理が問題だと言えばそれまでだが、実は他県で起きてもおかしくない「仕組み」の問題がある。上述の通り、毎日発表している感染者数は、都庁が各保健所から送られてくるFAX情報などを基に作成される。だが、保健所は都庁の指揮命令下にある出先機関だけではない。むしろそれ以外の方が多い。 都内に保健所は31ある。そのうち、都の所管する保健所は八王子、町田を除く多摩・島しょ地域を管轄する6か所のみ。それ以外は23区に1つずつ、人口30万以上の保健所政令市と呼ばれる八王子、町田両市に1つずつ。都庁の本庁部門は、都と市と特別区という異なる自治体が持つ保健所から送られてくる情報から感染状況を把握している。 この複雑な仕組みの中で申告漏れや集計ミスが起きた。感染者数の多い地域ほどミスが多く、それは20か所に及んだという。 今まで感染者が確認された場合、その報告はまず病院の医師が保健所に患者の氏名や住所、症状、感染経路などを記入した「発生届」をFAXする。保健所はその情報を基づいてそれぞれ所管の本庁に報告し、同時に都庁にもFAXで知らせる。4月中旬に都庁の担当部署で保健所から届いていた感染者リストと都のリストを突き合わせていたら、人数のズレに気付いた。調べたところ、感染拡大で受診相談や疫学調査が超多忙となった保健所が発生届を都に送ってこなかったり、重複して送っていたりしたことが判明。送信エラーも起きていた。 多忙が現場の混乱を引き起こしているが、もちろんあってはならないミスだが、問題の根源は報告様式の統一もなく、全て紙でやり取するこれまでのアナログ方式にあるのではないか。都は今回のミスを詫び、再発防止のため保健所の感染者情報を即時共有できるデータベースを導入したという。