第15回光州ビエンナーレレポート。ニコラ・ブリオーが指揮、人間と環境との関係性を問う人新世のアート
世界的な影響力を誇る光州ビエンナーレが開幕
9月7日、韓国・光州で開催される現代アートの国際芸術祭「第15回光州ビエンナーレ」が開幕した。会期はから12月1日。会場は光州ビエンナーレ展示館を中心に、市内にサテライト会場がある。また、各国・組織によるパビリオン展示も市内で行われており、今年は日本パビリオンが初参加した(レポート)。 1995年に始まり30周年を迎えた光州ビエンナーレは、韓国の民主化において重要な意味を持つ光州事件(5.18民主化運動)で知られる歴史的な場所が開催地であることも影響して、その政治性や企画力の高さによってアジア地域における国際芸術祭をリードしてきた。 今回はフランス出身の著名な批評家・キュレーター、ニコラ・ブリオーがアーティスティック・ディレクターを務め、「パンソリー21世紀のサウンドスケープ(Pansori a soundscape of the 21st century)」をタイトルに30ヶ国から73組のアーティストが参加した。
ニコラ・ブリオーと人新世/資本新世の芸術
ブリオーといえば、今年ついに邦訳が刊行された『関係性の美学』(1998)と、そこで提示された「リレーショナル・アート」というコンセプトでとりわけよく知られる。これらは世界のアートシーンにパラダイムシフトを起こしたが、本展はその後のブリオーの展開、すなわち現在の気候変動と環境危機に対するアーティストの反応という、この10年ほど継続的に探求してきたテーマの流れに位置づけられる。ブリオーは2014年の台北ビエンナーレで「グレート・アクセラレーション:人新世の芸術(The Great Acceleration : Art in Anthropocene)」と題した展示を企画して以来こうしたテーマに取り組んでおり、2022年には『包摂:資本新世の美学(Inclusions:Aesthetics of the Capitalocene)』という本を出版している。本展もこうしたブリオーの問題意識の延長にあり、その実践の最新形だと言えるだろう。 ブリオーが重要視するのは、人間と非人間、つまり動物や植物、菌類、ウイルス、テクノロジー、AIなどとの関わりであり、加速する消費主義・資本主義に対するオルタナティブな世界の模索だ。ブリオーは「関係性の美学」を引き合いに出しながら、その射程が人間同士からさらなる広がりを持つようになったとインタビューで語っている。 「関係性の美学は、より包括的な方向に進化してきました。つまり私が見ているものには、人間以外のもの、動物や植物、ウイルスや温度などの目に見えない存在や、機械も含まれるようになりました。私が『関係性の空間』と呼ぶものは、相互作用の空間です。そこにはもはやオブジェクトはなく、様々な主観を持つエージェントが存在します。今日のアーティストはこのことを非常に強く意識しており、過去20年間で大規模な反人間中心主義の動きがありました。1990年代にはインターネットの台頭と人間同士の関係に基づく産業やサービスの始まりが主な問題でした。現在では、人間と、かつて我々が『環境』と考えていたものとの関係が問題になっています。世界はエコーチェンバーなのです」(*1)