第15回光州ビエンナーレレポート。ニコラ・ブリオーが指揮、人間と環境との関係性を問う人新世のアート
音と匂いが混じり合う空間
そして3階からは「ポリフォニー」という章。とくに目を引いたのがマックス・フーパー・シュナイダー(Max Hooper Schneider)《LYSIS FIELD》だ。砂が広がった奥に、淡水生態系とジャンクな素材でできた滝を備え、さらに廃品や地域廃棄物を含むビオトープのような大掛かりなインスタレーションだ。様々な事物が互いに関係し合う、退廃的な近未来のエコシステムだろうか。 中国出身のユアン・ワン(Yuyan wang)の《Green Grey Black Brown》も印象的だった。大地や土壌の様々なシーンをつないだ映像にセンシュアルな歌声が響く。海亀の卵が埋まった砂浜、腐敗して土に還る落ち葉、泥につかる人々、巨大な滝、セメントのようなものを大量に流し込む太いパイプとそれを持つ人々など、人間によるエコロジーへの介入や、非人間との相互関係が描き出される。 フランス出身のガレ・ショワンヌ(Gaelle Choisne)は果物とお香を用いたインスタレーションを発表。本展では、このようにいくつかの作品が発する匂いや音・音楽が、各作品のスペースを超えて混ざり合っている。一般的なグループ展が各作品の音響等の干渉を避けようとするのとは対照的な空間づくりに、本展の思想が表れていると言えるだろう。 ブラジル・サンパウロ在住のアレックス・チェルヴェニー(Alex Červený)は、広大な自然を舞台に聖書と神話の登場人物、ウルトラマンなどのキャラクター、科学的な要素などを登場させた超現実的な風景を描いた作品で知られる。新作《ボートピープル》(2024)はベトナム戦争時のボートピープルを描いたもので、メルヴィルの『白鯨』やホメロスの『オデュッセイア』、カストロ・アルベスによる奴隷貿易を扱った叙事詩などを引用。植民地支配と捕鯨産業、奴隷貿易、異文化間の交流といったテーマを読み取ることができる。