第15回光州ビエンナーレレポート。ニコラ・ブリオーが指揮、人間と環境との関係性を問う人新世のアート
シャーマン、魔女、原始的な音
現在の危機的な地球環境の変化には、人間社会の資本主義、家父長制、奴隷制度、植民地主義、水や動物の搾取といった政治的・社会的問題が深く関与している。こうした近代化以降の主流な権力構造を組み替えるオルタナティブとして、近年エコフェミニズムや魔女といった存在が芸術、文化、思想の諸領域で改めて注目を集めている。ブリオーもこうした資本主義以前の精神的・社会的実践を重要視しており、本展でもシャーマンや呪術的要素を感じさせる作品が紹介されている。 3つ目の章「原始的な音(Primordial Sound)」は、ヒンドゥー教等においてオーム (聖音)と呼ばれる原始的な音にインスピレーションを受けた構成で、宇宙の広大さ、人間のいない惑星、砂漠、ジャングルといったテーマを扱うアーティストを紹介。パンソリの起源でもあるシャーマンという存在が、人間中心主義とは違う世界の可能性へと鑑賞者を誘う。 ロシア出身、現在はインドネシア・バリ島拠点のソフヤ・スキダン(Sofya Skidan)による3面スクリーンの映像作品《What do you call a weirdness that hasn’t quite come together?》 では、雄大で神秘的な自然の風景とデジタルテクノロジーによって生み出された映像が溶け合う。伝統的なシャーマニズムと現代のサイバースペースが融合したサイバーシャーマンがヨガのようなポーズを取りながら、周囲と交わる濃密で官能的な雰囲気を醸し出す。 「真に喫緊の課題や、政治的緊急事態とは何か、それは私たちが暮らす世界の変化を正しくとらえる現代のアーティストたちから得ることができる」(*3)とブリオーは語る。人新世とも言われる、人間の行動が劇的な環境危機を引き起こしている現代において、私たち人間は人間以外の存在とどのようにともに存在し、影響し合いながらより良い風景や生態系を生み出すことができるのだろうか。そうした政治と美学に関わる問いに、アートの実践を通して迫る展覧会だ。 *1――OBSERVER, Nicolas Bourriaud Discusses the Curatorial Approach of the 2024 Gwangju Biennale https://observer.com/2024/09/interview-nicolas-bourriaud-director-gwangju-biennale-pansori-2024/ *2――ICA Kyoto, ニコラ・ブリオーとの会話 https://icakyoto.art/realkyoto/talks/87254 *3――ArtReview, Nicolas Bourriaud Animates the Gwangju Biennale https://artreview.com/nicolas-bourriaud-animates-the-gwangju-biennale/
福島夏子(編集部)