日本社会で“なかったこと”にされてきた「母親になった後悔」…「いえたなら」に込めた社会への問い
「母親にならなかった後悔」は語られるのに「母親になった後悔」はなぜ語られないのか? 日本で母親になるということとは? イスラエルの社会学者オルナ・ドーナト氏の著書『母親になって後悔してる』(新潮社)が2022年に刊行されたのを機に、日本の「後悔する母親」たちへの取材を開始したNHK記者とディレクターによる『母親になって後悔してる、といえたなら―語りはじめた日本の女性たち―』が2024年10月に刊行されました。「後悔すること」と「子供を愛していないこと」は同じではない――。同書の取材過程で見えた、母親という役割、社会やメディアの責任、そして「後悔」を言葉にすることの意味について、著者でNHK記者の髙橋歩唯さん(35)とディレクターの依田真由美さん(36)に話を伺いました。
「これって私の母のこと?」「産んで後悔することもあるのかな?」…『母親になって後悔してる』の衝撃
今回の一連の取材のきっかけになった、ドーナト氏による『母親になって後悔してる』は、「もし時間を巻き戻せたら、あなたは再び母になることを選びますか?」という質問に「ノー」と答えた23人の女性へのインタビューを元に構成された本で、“Regretting Motherhood (リグレッティング・マザーフッド)”というタイトルで2016年にドイツ語で初めて出版。その後、世界各国で刊行され話題を呼び、日本語翻訳版は2022年3月に『母親になって後悔してる』(新潮社)として刊行されました。 同書のタイトルを目にしたときに依田さんは「これは自分の母のことなのでは?」と真っ先に思ったと明かし、勇気を出して本を手に取って読み進めていくうちに「『(母親になって)後悔すること』と『子供を愛していないこと』は必ずしもイコールではないことが腑に落ちて救われた気持ちになりました」と振り返ります。 「それと同時に、自分が母に『母親』という役割を背負わせていた一因でもあったことに気づきました。『母親なんだから家事をちゃんとやってよ』と押し付けていた部分もあったなと。そしてそれは我が家だけではなくて、日本の多くの家庭で今も起こっていることと思ったので、ぜひ取材をしたいと思いました」(依田さん) 一方、髙橋さんは、30歳を過ぎてから「子供っていいよ」「産める時期は限りがあるから」「後悔しないようにしたほうがいいよ」と声をかけられる機会が増えてモヤモヤしていたときに同書に出会いました。 「『産まなくて後悔する』ことがあるのなら、『産んで後悔する』こともあるのではないか? とふと浮かんだんです。自分の周りの働きながら子供を育てている女性を見ると、苦しそうというか大変そうだなと思うこともありました。何かヒントがないかな? と考えていたときに出会ったのがこの本でした」(髙橋さん)