日本社会で“なかったこと”にされてきた「母親になった後悔」…「いえたなら」に込めた社会への問い
「子供への影響は?」「少子化を助長しかねない?」局内での反応
『母親になって後悔してる』が日本で刊行された2022年3月から1ヶ月後、髙橋さんはドーナト氏へのインタビューを含めて取材を開始し、5月にはNHKのウェブサイト上で「“言葉にしてはいけない思い?”語り始めた母親たち」として配信。その後、同じテーマに関心を寄せていた依田さんとテレビでの放送を目指して取材を始め、2023年6月に『ニュースウォッチ9』で特集としての放送にこぎ着けました。 一連の取材についてのNHK局内での反応は?「母親になって後悔」という言葉への反発はなかったのでしょうか? 「非常に重要な声だろうという意見がある一方で、この言葉がテレビという不特定多数の人たちが見る媒体で伝えた際にどんなふうに伝わるのか? という懸念の声が上がりました。子供への影響もそうですし、少子化を助長するような言葉だと受け止められないか? という声もありました」(髙橋さん) しかし、ウェブサイトの記事の最後に感想や意見を募集する「投稿フォーム」には、300件を超す投稿が寄せられました。中には数千字に及ぶ感想もあり、その反響の高さも後押しになり、取材は進められました。 ドーナト氏の日本版とも言える『母親になって後悔してる、といえたなら―語りはじめた日本の女性たち―』では、母親になって後悔しているという15人にインタビューを敢行。取材で見えてきた日本独特の事情などはあるのでしょうか? 「日本独自の事情かどうかはわからないのですが……」と前置きした上で、依田さんは「日本社会がいかに根強い家父長制にとらわれているかを改めて感じた」と言います。そしてメディアとしての責任も……。 「“子供の面倒を見て、いつも優しい笑顔のお母さん“という理想の母親像を押し付けてきたのではないか? というメディアに関わる者としての反省もあります」(依田さん) 髙橋さんも「母親だけが一人で全部頑張るという構造があるなあと感じました。例えば、他の国であれば夫婦2人で家事や子育てを分かち合ったり、地元のコミュニティの手を借りたりという例もあると思うのですが、日本では地縁のコミュニティがなくなる一方で、母親がどんどん追い詰められているのかな」と分析しました。